『「日本左翼史」に挑む 私の日本共産党論』
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<書評>『「日本左翼史」に挑む 私の日本共産党論』大塚茂樹 著
[レビュアー] 中沢けい(作家)
◆危機の時代に意義示せるか
『真説 日本左翼史』など、池上彰と佐藤優による対談の三冊に補足、反論そして対話する形で書いた日本共産党論であると述べる著者は、元岩波書店編集者として同党に近い知識人との交流を持つ。
印象的なエピソードを一つ挙げる。雑誌『世界』一九九七年三月号の特集「<生きにくさ>という問題」について、岩波雄二郎会長から「まったく理解できない」と疑義を示されたそうだ。時代が衣食住の欠乏に苦しむ生命の危機から、存在そのものを疑う存在の不安へと変化する中で生まれた齟齬(そご)である。
二十一世紀を迎えた現在は、生命の危機と存在の不安の両方を抱えた人々が社会に登場した。一方では裕福な社会しか知らない人々もいて、彼らの薄情な発言が顰蹙(ひんしゅく)を買うことも近頃珍しくない。このアンバランスの中で同党は社会的存在意義を示せるのか、という著者の呟(つぶや)きを聞くかのような印象を本書に持った。
同党の百年を振り返る本書は社会運動、左翼運動にかかわった人にとって頭の整理ができる一冊となっている。
(あけび書房・1980円)
1957年生まれ。ノンフィクション作家。
◆もう1冊
『世界史の考え方』小川幸司ほか編(岩波新書)。欧州での資本主義形成と国際関係を読む。