【気になる!】文庫 『近代数寄者の茶の湯』
[レビュアー] 産経新聞社
明治初期、武家社会の崩壊を受けて茶道はいったん衰退するが、やがて政財界の富豪に近代の数寄者と呼ぶべき面々が現れ、復活を遂げた。本書は、三井銀行や三井呉服店などで活躍した実業家で茶人の高橋箒庵(そうあん)(義雄)の足跡を中心に、井上馨(かおる)、益田孝、原三渓(さんけい)、藤田伝三郎、根津嘉一郎らとの交流などを描く。
仏画の名品や名物茶道具を巡る争奪戦、破天荒な茶会の顛末(てんまつ)など、耽美(たんび)にして豪快なエピソードが満載で面白い。近代的な合理主義と、日本の伝統文化を大切にする保守主義が、彼ら近代数寄者の精神に深く根差していたことが分かる。(熊倉功夫(いさお)著、中公文庫・946円)