『たべて うんこして ねる』
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絵本業界の大人気夫婦が描く シンプルで揺るぎない生活の摂理
[レビュアー] 夢眠ねむ(書店店主/元でんぱ組.incメンバー)
作者のはらぺこめがねは「食と人」をテーマに創作活動をしている夫婦ユニット。夫の原田しんやさんが食べ物の絵を描き、妻の関かおりさんがそれ以外を描いている。見ているだけでヨダレが出る大迫力の絵とヘンテコなお話が人気で今の絵本業界に欠かせない作家なのだが、今回の新刊はちょっと様子が違うのだ。
以前二人に「私は人に(作品を通して)伝えたいことがないんだよね」と話した時、「わかる、面白かったらええよな」と共感してくれたことがある。実際、彼らの作品は美味しそうな食べ物とアイデアが前面に出ていて、タイトルを見ればテーマの食べ物がすぐわかるほどシンプル(『にくのくに』『みんなのおすし』など)。読んで楽しく幸せな気持ちになれど“沁みる”系の作品ではない。
しかし今回は先述したように様子が違う。なんとなく「これは、彼らがついに“伝えたいこと”を作品にしたのではないか」と思った。本文はほぼ「たべて うんこして ねる」で構成されており、ある家族の暮らしが(美味しそうな食事はもちろんだが、うんこもしっかり)描かれている。淡々と、どっしりと。
もうタイトルから子どもたちは夢中。当書店の棚に並べた時から「たべてうんこしてねる、だって!」と大騒ぎ。しかし実際読んでみると神妙な顔をして「僕も食べてうんこして寝てるよ」「でもさ、寝る前は歯磨きするよ!」「あっ、お風呂も入る」「私はねぇ」とそれぞれの暮らしを教えてくれた。私はその光景になんだかジーンとしてしまったのだ。
ニュースで見る事件に心を痛めたり、自分や国の将来に不安を持ったりするけれど、みんな“たべてうんこしてねる”を軸に存在している。それぞれの人生にトッピングはあれど、それは揺るがない。帯の後ろに書かれている「ほんまのところ、それができてりゃ充分とちゃいまっか。」に頷きながら、暮らしについて考える。