女優「小橋めぐみ」が19歳で言われた「川端康成に捧げたい」…戸惑いを変えた性の深みとは
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- 眠れる美女
- 価格:572円(税込)
〈川端康成さんが生きていたら、小橋めぐみに会わせたかった。生贄とか、人身御供とかいう言葉が昔あったが、正直に言えば、そうした意味で、川端さんにこの子を捧げたかった〉
作家で演出家の久世光彦さんが昔、私の出演する舞台のパンフレットに寄せてくださったエッセイの一節だ。タイトルは「眠れる美女―小橋めぐみ」。当時私は19歳。数ヶ月前には久世さん演出の舞台「寺内貫太郎一家」の稽古でいつも怒られていた。『眠れる美女』をすぐに買って読んだ。
67歳の江口老人が、会員制の秘密クラブのような家で体験する秘め事を描いた小説である。そこはいわゆる娼婦の館なのだが、趣向が一風変わっている。薬で眠らされた裸の若い美女の傍で、一夜をともに過ごすというコンセプトなのだ。
川端は62歳の時に刊行したこの小説で、初めて男の悲哀を描いたともいわれる。
客は、もう男ではなくなった「安心出来る」老人限定。美女は朝の訪れにも目覚めず、隣に誰がいたのかを知ることはない。江口老人は「若い生のめぐみに満ち」た眠れる美女から、様々な女との思い出を想起し、「計り知れぬ性の広さ、底知れぬ性の深み」に思いを巡らす。
江口老人は幾度となく昂ぶる。自分はまだ安心出来る客ではないのだと。この「女奴隷」の上に「侮蔑や屈辱を受けた老人どもの復讐」を刻んでやるなどと妄想する。久世さんは眠れる女と私を重ね合わせていたのかと思うと、嬉しさよりも戸惑いを覚えた。
けれどもあれから四半世紀近く経ち、改めて読み直すと、陶酔に似た密かな幸福感が湧き上がってくる。
江口老人は、ふいに「老年の凍りつくようななさけなさ」を感じるが、その感情は「若いあたたかみを匂い寄せている娘にたいする、あわれみといとしさに移り変った」。そして「老人は娘のからだに音楽が鳴っていると感じた」。
老人の背徳感も生命の賛美も身に沁みてくるのは、私もまた、次第に若さを失いながらも、歳を重ねる間に性の深みのようなものに少しは触れてきたからだろうか。「若い生のめぐみ」を一瞬でも久世さんに感じさせることができたのかも知れない――。その思いに今、私の心は救われている。
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