『ポスト・ヨーロッパ』
- 著者
- スラヴェンカ ドラクリッチ [著]/栃井 裕美 [訳]
- 出版社
- 人文書院
- ジャンル
- 社会科学/社会
- ISBN
- 9784409241516
- 発売日
- 2023/02/17
- 価格
- 3,300円(税込)
書籍情報:openBD
『ポスト・ヨーロッパ』スラヴェンカ・ドラクリッチ著(人文書院)
[レビュアー] 小泉悠(安全保障研究者・東京大講師)
1989年の東欧革命で、ヨーロッパを分断していた「鉄のカーテン」は取り払われたはずだった。
それから30年を経た現在、ヨーロッパについて語る語彙(ごい)には再び「分断」が含まれるようになっている。英国のEU離脱、難民問題、LGBTなどを巡って欧州は大きく揺れており、2022年にはここにウクライナでの戦争まで加わった。
これらの問題について語る切り口は様々であろうが、本書のアプローチは、その副題、「共産主義後をどう生き抜くか」に示されている。例えば未(いま)だに経済発展の遅れた旧共産主義諸国では、豊かな西欧と同じブランドの食品でも実は成分が異なっており、味が落ちるという。私有財産というものがなかった旧共産圏では土地の処分も簡単ではないし、構造化された汚職問題や女性差別も根深い。
古い家具を取り去った後にシミが残るように、「鉄のカーテン」の痕跡は欧州のあちこちに残されているというのが本書の告発するところと言えよう。ユーゴスラヴィア出身の著者だからこそ描けるヨーロッパ像は、憂鬱(ゆううつ)だが鋭い。栃井裕美訳。