『SF超入門 : 「これから何が起こるのか」を知るための教養』
- 著者
- 冬木, 糸一, 1989-
- 出版社
- ダイヤモンド社
- ISBN
- 9784478109366
- 価格
- 1,980円(税込)
書籍情報:openBD
『「これから何が起こるのか」を知るための教養 SF超入門』冬木糸一著(ダイヤモンド社)
[レビュアー] 川添愛(言語学者・作家)
10年後を予測 独創56作
「あまりSFを読んだことはないけれど、最近気になっている」という人は増えているのではないか。私もSFを「頭のいい人が書き、頭のいい人が読むもの」と敬遠してきたが、現実が急速にSFじみていく様を見ていると、未来を知るための手がかりが欲しくなってくる。
有り難いことに、本書は私のようにSFにくわしくない人のために書かれている。紹介されている56作品(シリーズ)は、多くのSFファンに信頼される著者が「10年後を想像する」という観点で厳選したもの。著者の紹介は各作品の勘所を押さえつつ、読みたさを猛烈にかき立てる。
驚くのは、SFがカバーするテーマの幅広さだ。人間が恐れていること、また望んでいることのすべてがSFの題材になっていると言ってもいい。そして、それらの題材を料理する作家たちの発想には度肝を抜かれる。私がとくに面白いと思ったのは、性別を変える技術が発達した世界で日本人男性に最大24ヶ月間女性になることが課される『徴産制』(田中兆子、新潮文庫)と、巨大な天体との接近を回避するために地球の方を移動させる『地球移動作戦』(山本弘、ハヤカワ文庫)だ。こういったアイデアに触れるたびに、頭の中がかき回される思いがする。世界をリードする起業家たちがSFを愛読しているというのもうなずける。
本書を読んで思ったのは、SF作品の中核はあくまで「人間を描くこと」にある、ということだ。現実の過去の事例や作家自身の深い内省が、作品世界のシミュレーションにふんだんに織り込まれている。人間の危うさや歴史の教訓を掘り起こすのも、SFの役割の一つなのだろう。
もちろん、小難しいことを考えず、ブックガイドとして気軽に読んでも楽しい。私は本書のおかげで「これぞ私のためのSF!」と思える一冊に出会うことができた。今は、本書に付いた「SF沼の地図」を見てワクワクしながら、次に何を読もうかと考えている。