『ライク・ア・ローリングカセット』
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<書評>『ライク・ア・ローリングカセット カセットテープと私 インタビューズ61』湯浅学 著
◆人の姿膨らむ生態記録
地球が回るのを見たことはないが、音楽が回るのにはよく触れた。レコード盤、カセット、CDまでか。iPod以降は物体の回転がなくなって、ときに五感が寂しがる。とはいえ、アメリカでは広い地域でいまもカセットが現役であると編集者・写真家の都築響一が本書で語るように、わたしの母がカラオケを練習するのもいまだカセットだ。灯台下暗し。
音楽評論家の湯浅学によるインタビュー集は、消えゆくメディアへの懐古趣味ではなく、人とカセットとの生態記録である。各人が持ち寄ったカセットから花開くのは、思い出話にとどまらない。元大関・増位山太志郎は「かたち」をつかみ、長与千種はプロレスの試合で一万の「泣き声」を聴き分け、漫画家・杉作J太郎には「自分」が返され、シンガー・ソングライターの折坂悠太は妻の声から「作為」について思い巡らす。小箱から世界の不可思議があふれてやまない。
息を吹きこみ、息吹を再生する。磁気テープがノイズをふくんで音像を広げるように、本書のもとに人の姿が膨らむ。
(小学館・2750円)
1957年生まれ。音楽評論家。バンド「湯浅湾」リーダー。
◆もう1冊
『花に舞う・日本遊民伝 深沢七郎音楽小説選』深沢七郎著(講談社文芸文庫)