『園芸のジャポニスム』鈴木順二著 貴族お抱えの日本人

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『園芸のジャポニスム』鈴木順二著 貴族お抱えの日本人

[レビュアー] 寺田理恵(産経新聞社)

欧州で19世紀後半に起きた「ジャポニスム」は、美術や服飾の日本ブームと思われているが、実は園芸にも及んでいた。ベル・エポック(良き時代)のパリ社交界を描いたプルーストの長編小説『失われた時を求めて』。その登場人物のモデルとされる貴族らのため、日本庭園や盆栽を手掛けた日本人庭師がいた。

本書はプルーストを研究する過程でハタ・ワスケ(畑和助)の存在を知った仏文学者が、ハタについて記述した資料を探し求め、その埋もれた事績を明らかにした労作だ。

ハタは1889(明治22)年、23歳でパリ万博の園芸展示場に日本園を作り、外貨獲得のための輸出品ユリや盆栽などを披露して名門貴族モンテスキウ伯爵の目に留まる。

閉幕後は伯爵に雇われ、伯爵の従妹でパリ社交界の花形グレフュル伯爵夫人の城館に日本庭園を作った。「三日月形の窓のついた素敵なあずまや」(伯爵夫人)をこしらえ、「戸外での晩餐(ばんさん)時になると、いくつもの行灯(あんどん)に火をともした」(伯爵)。やがて富豪ロスチャイルド家のエドモン男爵のお抱え庭師となり、日本特産の鑑賞用鶏オナガドリを育てたり、生け花で城館を飾ったりも。名のある造園家たちと交際し、「芸術庭師」として農業省の勲章を受ける。

本書には、フランスの国立図書館や北部の博物館に収蔵されている資料、グラフ誌などから、伯爵や印半纏(しるしばんてん)を着たハタ、盆栽、庭園、城館などの写真を収録。華やかな社交界と、ジャポニスムの知られざる一面が浮かび上がる。また、日本の園芸品を扱う商社の動きも盛り込んでいる。

ハタが活躍した40年の間、フランスでは盆栽や箱庭、日本庭園が流行、この流れは第二次大戦まで続いた。ところが園芸分野の日本趣味は、日本では当時の風潮の中で生まれた「散発的な事象として紹介」され、ハタの活動が抜け落ちているという。著者は、園芸のジャポニスムを大幅に見直す必要があると指摘している。日本の園芸文化の価値を再確認できる一冊。(平凡社・4620円)

評・寺田理恵(文化部)

産経新聞
2023年5月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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