漫画家はAIイラストを当たり前に使うようになる…? AI画像だけで作った漫画作者が語る未来とは

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サイバーパンク桃太郎

『サイバーパンク桃太郎』

著者
Rootport [著]
出版社
新潮社
ジャンル
芸術・生活/コミックス・劇画
ISBN
9784107725738
発売日
2023/03/09
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

画像生成AIが1冊まるごと漫画を描いた!『サイバーパンク桃太郎』作者Rootportインタビュー 漫画とAIの未来はどうなる?

[文] 新潮社


桃太郎の発祥地・岡山はスラム化

昨今、「ChatGPT」などのチャットAIボットや、AIが画像を生成してくれるAIサービスに注目が集まっている。

画像生成AIで人工知能が作成した高精細な画像には大きなインパクトがあり、SNSなどで話題になったが、ついに1冊まるごとAIによって描かれた漫画まで誕生した。

その名も『サイバーパンク桃太郎』(Rootport・新潮社)だ。

昔々、お爺さんは柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に……と我々日本人には馴染み深いストーリーが一変。お爺さんは柴刈りという名のハッキング、お婆さんは洗濯という名の資金洗浄を生業にスラム街に暮らしており、そこに謎の少年が届けられるという、まさにサイバーパンク風の物語になっている。

作者のRootport(ルートポー)さんは、ブロガーであり、ライター、小説家、漫画原作者としても活躍している。『サイバーパンク桃太郎』制作のきっかけや、どのようにして漫画作品に落とし込んだのか、画像生成AIがもたらす漫画の未来などを語ってもらった。

これからはAIと人間の共同作業がとても重要になる

「きっかけは、4年ほど前に『会計が動かす世界の歴史』という本を書いたことです。その本の結論は、『これからはAIと人間の共同作業がとても重要になる』というものでした。今もっともよい成績を残すことができるのは、人間とAIの共同チームだといわれています。チェスや将棋では、だいぶ前から人間はコンピューターに勝てなくなっていますが、AIで棋譜研究をしている藤井聡太6冠も、ある意味では、AIと共同作業をしているといえるでしょう。その本の中では、漫画への応用も進んでいくだろうとも書いており、使い物になるAIが出てきたら、すぐに何かを作ってみようと考えていました。そんな中、2022年7月半ばに、画像生成AI『Midjourney』(ミッドジャーニー) のベータ版が公開され、非常に高精細な画像を生成できるようになりました。この品質であれば漫画のかたちにできるのではないか、と飛びついたわけです」

ストーリーを考え、コマ割りをして、ネームをつくるところまでは自分で行なう。そこから、必要となる絵をMidjourneyで作成していくという。具体的な絵の制作プロセスはどのようなものなのだろうか。


同じプロンプトの入力でも違った絵が生成される

AIへは、会話形式で生成したい画像をテキストで入力。「プロンプト」(俗に「呪文」ともいう)を書き込むと、それに合わせた絵をAIが作成する。実際に、主人公の桃太郎を出すために「cyberpunk, momo-taro, midnight, japan」というプロンプトを入れてみる。しかし出てきたのは、少女の画像だった。「momo」という単語にAIが引っ張られてしまうのだ。そこで、「pink hair, asian boy, cyberpunk, stadium jacket, manga」と打ち込むと、ようやく少年が出てきたという。

画像生成AIの弱点とは? 同じ画像、キャラクターの生成が難しい

しかし画像生成AIのMidjourneyは、同じプロンプト を入力しても、必ずしも前回と同じ絵を出してくれるわけではない。なぜ同じ絵が出せないのだろうか。

「画像生成AIの仕組みは一言で説明しきれないので、分かりやすい例にしますね。たとえば、コーヒーフロートを常温で放置すれば、コーヒーと氷、アイスクリームの混ざった液体になりますよね。熱力学では、この『混ざった状態』から、元の秩序ある『コーヒーフロートの状態』を推測する数式が研究されています。画像生成AIはこれを応用し、ランダムなノイズから秩序ある画像を推測・生成しています。毎回、ランダムなノイズから推測を開始するので、同じ“呪文”でも違う画像が出てくるのです」

漫画をつくる上で、同じキャラクターを安定的に生み出せないというのはネックだ。Rootportさんはどのように工夫したのだろうか。

「キャラクターに記号的な要素を入れて、多少のばらつきがあっても、誰が誰だか判別できるようにしました。主人公はピンクの髪で、登場人物の女性警察官は犬耳をつけている、等々の個性をもたせています。 でも、犬耳をつけた女の子はうまく出力できなかったので、可愛らしい 日本の女の子をまず生成して、そこに後からオオカミの耳を合成するという手法も取りました」


右の女の子に耳を合成

手の描写が苦手という弱点も

他にもMidjourneyには色々と弱点があった。手の描写が苦手だったり、背景も含めて複雑な絵を描かせると細かな部分が崩れやすくなる。連載開始当初は人物と背景を同時に生成していたが、途中からは別々に出して合成するやり方に変えたという。

「そもそも全身像を描かせると、顔が崩れやすかったんですよ。漫画としては、新キャラが出る時には、本当は4段ブチ抜きとかでバーンと出したいんだけれど、そういう派手な演出はかなり使いづらかったです」

当時使っていたMidjourneyはVer.3だったが、その後公開されたVer.4では、様々な点が大きく改善されている。連載中にVer.4の元となるベータ版が3日間だけ使えたので、そのときに作成した絵もある。


合成画像生成AIは驚きの速さで進化

「こちらに向けて銃を構える女性の絵はVer.3ではつくれなかったので、ベータ版でこれが出てきたときには『おおっ!』という感じでした。

手の描写が苦手、などという具体的な課題も、ものすごいスピードで解決されていっています。ただ、私がAIを使いながら感じていたのは、彼らには感情と経験がない、ということ。たとえば、もしも私がクラシックの作曲家だとしたら、自分が作った音楽をPCで演奏させることもできるけれど、やっぱり人間のフルオーケストラに演奏してもらいたいと思うでしょう。AIを使えば漫画の作画はできますが、どうしてもそこには越えられない壁があると思います。人間の絵描きが絵を入れると、絵に命が宿る、とでもいえばいいでしょうか。人間は、感情だとか、過去の経験であるとか、誰かに伝えたいというコミュニケーションの能力であるとか、そういうAIが持っていないものも加えて出力するので、そこが違いになる。たとえば、怒りの顔を100個くらい出すとしたら、いろんな怒りの顔をMidjourneyは出してくれますが、そのシーンにぴったりな顔がどれなのかはわからない。それがわかるのは、感情を持つ人間です」

人間の漫画家にはかなわないが、AIが得意とする部分もある。「そこそこの品質の画像」を「高速で大量に生成すること」だ。そのためRootportさんは、様々なパターンの表情を大量に用意しておいて、その中から、もっとも適した表情を選んでいった。

「ひとつの“呪文”で狙った絵を出すのはけっこう難しいんですが、たとえば『怒っている顔』をあらかじめ何百パターンも出しておいて、あとからはめ込むのです。これは今後、定番の手法になると思います」

今後は漫画にAIを使うことが当たり前になっていく

AIとの“共同作業”で漫画を上梓したRootportさんは、AIと漫画制作の未来を、どのように見通しているのだろうか。

「AIの可能性でいうと、今後は使うことが当たり前になっていくと思います。Photoshopが出てきた時に、こんなもので漫画をつくるなんてけしからんと怒った人たちがいました。写真から線画を抽出して背景に使う技術が生まれた時も、やっぱりこんなものは漫画とは呼べないと怒った人もいましたよね。

でも今ではどちらも一般的な手法になっています。AIを使った作画も、今後はごく普通のことになっていくし、わざわざ作家がAIを使いましたともいわなくなると思います。

『これはAIで描いた漫画です!』というのがセールスコピーになるのは、自分のこの作品が最後になるかもしれません。それくらいのスピードでAIは進歩していっていますし、漫画家にとっても使いやすいものになっていっています。

Midjourneyでつくった画像でアートの賞を受賞した、という事件がありましたが、私はあれには批判的です。それはただの詐欺であって、批判されるべきだと思っています。それによってAIへの反発が強まるのが、私は嫌です。

AIは、人間の可能性を拡張してくれる存在だと思っています。本当はホラー漫画を描きたいんだけど、クリーチャーをデザインするのが苦手だから描けないという人が、クリーチャーのデザインをAIにやってもらうことによって、自分は人間ドラマに集中して描く、というようなことも可能になるでしょう。表現者たち、アーティストたちが、本当に表現したかったものを実現できるように手助けしてくれるツールである、というのが私のAI観です。AIと人間はベストパートナーになれるのではないか、私はそう思います」

※「芸術新潮」2023年4月号をもとに再構成

【著者プロフィール】
Rootport(ルートポート)
作家・マンガ原作者。『ドランク・インベーダー』『サイバーパンク桃太郎』『神と呼ばれたオタク』『女騎士、経理になる。』ほか。好きな言葉は「群盲撫象」

新潮社 芸術新潮
2023年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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