『人生後半の戦略書 ハーバード大教授が教える人生とキャリアを再構築する方法 (原題)From Strength to Strength』アーサー・C・ブルックス著(SBクリエイティブ)
レビュー
『人生後半の戦略書 : ハーバード大教授が教える人生とキャリアを再構築する方法』
- 著者
- Brooks, Arthur C., 1964- /木村, 千里, 1979-
- 出版社
- SBクリエイティブ
- ISBN
- 9784815618476
- 価格
- 1,870円(税込)
書籍情報:openBD
『人生後半の戦略書 ハーバード大教授が教える人生とキャリアを再構築する方法 (原題)From Strength to Strength』アーサー・C・ブルックス著(SBクリエイティブ)
[レビュアー] 堀川惠子(ノンフィクション作家)
仕事依存捨て 愛や友情
20代はガムシャラに、30代で経験を積み、40代で目標達成の手ごたえも味わい、さて、と立ちどまるのが50代か。人生後半どう充実させるかを指南する本書は全米ベストセラー。冒頭から「ストライバー(成功者)の呪い」という不気味な言葉を提示する。大なり小なり成功体験を持つ人が抱える、密(ひそ)かな苦悩のことだそう。
示されるデータは残酷だ。高いスキルを必要とする職業は、ほぼ例外なく30代後半から50代前半にキャリアの落ち込みが始まる。金融業のピークは36から40歳、医者や音楽家は30代、整備士や事務員も35から44歳。なのに業界では高齢のベテランが主要な座を独占。「潮時と認めるのは難しい」との証言も。不可避なキャリアの落ち込みに怯(おび)え、成功するほど不安を感じ、宴(うたげ)が終わらぬよう現実から目を背け、ますます仕事に依存し、身近な人間関係を犠牲にする。昔の栄光を求め続けるのは「止まらないランニングマシンに乗っているようなもの」。ドキッとしたベテランさん、いるのでは。
そもそも成功の快感は長続きしない。あとで必ず落ち込みが訪れる。これは一定の状態を維持しようとする人間の本能で説明できるという。進化学的には、生き残るため突出した感情を均衡させる仕組みだ。死ぬ前に「もっと仕事すればよかった」と言い残す人はいない。「幸福」になるより「特別」になろうとする生き方を変え、人生「第2の曲線」に入ろうと本書は呼びかける。
著者の提案は過去の栄光を忘れろ、というのではない。捨てるべきは「仕事と成功への依存心」や「世俗的な見返りへの執着」。深めたいのは、恋愛や友情など安定した関係での相互理解(恋に落ちるより愛し続ける営みが大事)。他者との比較や望まぬ孤独は危険で、「足りないのは一歩を踏み出す口実だけ」とも。わが道を行くもよし、本書を手に取るもよし。迷える中高年に発想の転換を促す一冊であることは請け合いだ。木村千里訳。