<書評>『資本主義の次に来る世界』ジェイソン・ヒッケル 著

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資本主義の次に来る世界

『資本主義の次に来る世界』

著者
Hickel, Jason, 1982-野中, 香方子
出版社
東洋経済新報社
ISBN
9784492315491
価格
2,640円(税込)

書籍情報:openBD

<書評>『資本主義の次に来る世界』ジェイソン・ヒッケル 著

[レビュアー] 根井雅弘(京都大教授)

◆自然搾取せず脱成長経済

 経済人類学者の書いた話題作である。著者によれば、啓蒙(けいもう)主義は、創造物を「精神」と「物質」に分けたデカルトの二元論から始まった。彼は精神を持つ人間は神との特別なつながりを持つ特別な存在であり、それ以外は思考力のない物質、つまり「自然」であると考えた。この哲学は、近代ヨーロッパのエリート層に浸透していく。なぜなら、それは教会の権力を強化し、資本家による労働と自然からの搾取を正当化したからだ。

 だが、現在、神と魂と人間と自然は唯一の壮大な「実在」の異なる側面に過ぎないというスピノザの哲学が復活している。自然と神が同じであれば、人間に自然を支配する権利はないことになる。

 二元論は啓蒙科学を生み出したが、生態系の破壊に直面した現在、スピノザの哲学に戻り、経済を、富と人口が増加しない定常状態に保つ「生態経済学」の原則を確立すべきだと主張する。脱成長論にもつながるが、自然に「法的人格」を与えている国(例えばインドのガンジス川)を紹介し、読者の関心を刺激している。

(野中香方子訳 東洋経済新報社・2640円)

エスワティニ(旧スワジランド)出身の経済人類学者。

◆もう1冊

『科学と資本主義の未来 <せめぎ合いの時代>を超えて』広井良典著(東洋経済新報社)

中日新聞 東京新聞
2023年5月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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