『世界の奇食の歴史 人はなぜそれを食べずにはいられなかったのか (原題)REVOLTING RECIPES FROM HISTORY』セレン・チャリントン=ホリンズ著(原書房)
レビュー
『世界の奇食の歴史 : 人はなぜそれを食べずにはいられなかったのか』
- 著者
- Charrington-Hollins, Seren /阿部, 将大, 1976-
- 出版社
- 原書房
- ISBN
- 9784562072606
- 価格
- 2,750円(税込)
書籍情報:openBD
『世界の奇食の歴史 人はなぜそれを食べずにはいられなかったのか (原題)REVOLTING RECIPES FROM HISTORY』セレン・チャリントン=ホリンズ著(原書房)
[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)
「食」飽くなき挑戦と文化
喰(く)わず嫌いはいけないと思って、なんでもとりあえず一度は食べてみることにしている。蟻(あり)や蜂の幼虫も、カブトガニも、シュールストレミングも、釣り餌の蚕の蛹(さなぎ)も、タガメも、フルーツバットも、牛の4番目の胃の中身も、粘菌の培地も思いのほかいけた(割と波乱万丈な人生を送っています)。どんな風変わりに思える食べ物にも食べるに至った理由や文化がある。
本書のサブタイトル「人はなぜそれを食べずにはいられなかったのか」は、まさに、だった。缶詰の発明とその歩み。初期の不十分な殺菌や、溶接のために使われた鉛は恐ろしい悲劇を引き起こした。
安くて栄養たっぷり、臓物の毀誉褒貶(きよほうへん)。イギリスでは牛の乳房はご馳走(ちそう)だったし、蛋白(たんぱく)質豊富な脳みそは貧民層の食事を支えた。豚の頭部を茹(ゆ)でて型に入れた、煮こごりのようなヘッドチーズ。牛の口蓋に生殖器。今、わたしたちが綺麗(きれい)に下処理されたパックのお肉では見ないような部位が、日常生活の中で活用されていた。
日本ではほとんど食べることのない血も、世界中で珍重されている。カエルは「夜明けの妖精の腿(もも)」と呼ばれ(妖精を食べる方が怖くない?)、ウジ虫チーズにネズミ酒、食べ尽くされて絶滅した数々の種。塩漬けにした人間の足の指カクテル、万病に効くとされたカタツムリ水。ちなみに日本酒は「かびを利用した飲み物」として紹介されている。ジビエと言えば聞こえがいいが、轢死(れきし)したアナグマやラブラドルレトリバーはどうだろう……。
ただ本書の主旨はゲテモノ料理の紹介ではない。食にまつわる文化と風習、そして人の飽くなきチャレンジ精神を讃(たた)えるものだ。
昆虫食を巡って世論が喧(やかま)しいが、この世にあるおよそ全ての食べられそうなものは、もうチャレンジ済みなのだ。人類の食いしん坊っぷりを甘く見てはいけない。
わたしはコオロギ、わりと好き。阿部将大訳。