『ちょっと不運なほうが生活は楽しい』
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誰かが笑ってくれるなら
[文] 新潮社
書くことは、ちょっと楽しい?
田中 蛭子さんは3年前、ご自身が認知症を患われていると公表されましたが、認知症になる前、あの8年前のドライブの時すでに、僕と初めて対談した時のことも、僕にかけてくれた言葉も、覚えていらっしゃいませんでした。
蛭子 そうだったかな。
田中 今思い出しても、あの時の話の噛み合わなさに僕は笑ってしまうのですが、蛭子さん自身が忘れてしまったとしても、あの時の僕と同じように、今必死にもがく誰かの救いになったらいいなと願いながら、今回エッセイに書かせてもらいました。蛭子さんは週刊誌で、読者の悩みに答える「人生相談」の連載もされていましたが、人の悩みに答えるのは得意ですか?
蛭子 そうですね。やっぱり人って、他人からの言葉に弱いところがあるというか……。逆の方に考えるっていうのは楽しいんですよ。
田中 逆の方? 真剣に考えすぎない方がいいってことですか?
蛭子 うん、そうそう(笑)。
田中 違うでしょ、今の僕の質問に答えるの、面倒になってるでしょう(笑)。
蛭子 へへへ(笑)。
田中 全然いいですけど(笑)。漫画や人生相談以外にも、蛭子さんはエッセイの本も色々出されていますよね。
蛭子 そうでしたっけ?
田中 『ひとりぼっちを笑うな』とか、僕、何冊も持っています。
蛭子 一人か二人、騙されて買ってくれた人がいたらいいのだけど。
田中 一人か二人どころか、ベストセラーになりましたよ!
蛭子 どっちが儲かってる?
田中 え、蛭子さんの本と僕のと? それは蛭子さんのです。印税がたくさん入ったと思いますよ。
蛭子 それなら何の文句もないです(笑)。
田中 僕も蛭子さんみたいに、読者の感情をちょっとだけでも震わせられたらいいな、そんなエッセイが書けたらなと、1年半以上連載を続けました。書くと決めた日は朝から近所のルノアールでパソコンに向かうのですが、話がうまく運ばない時ももちろんあって、ルノアールからルノアールにはしごしても終わらないことも……。それでも、「締め切りには必ず間に合わせる」という自分に課したルールは、最後までなんとか守ることができました。
蛭子 へへへへ(笑)。
田中 これまでもコンビでやるネタを書いてきましたが、エッセイを書く時に、頭で考えていたままに面白い文章が書けた時はすごく楽しくて、ネタを作っている時に面白いくだりが書けた時と同じような快感を覚えました。それにエッセイでは、その時々の自分の感情や情景を細かく書き込めるのも新鮮でした。テレビのエピソードトークだと、例えば15秒以内にはオチをつけないと間延びする、一言で笑わせないとダメといった意識が働くので……。
蛭子 へへへへへへ(笑)。
田中 って蛭子さん、なんで笑ってるんですか? 「田中君、語っちゃってるよ~」みたいな?(笑)
蛭子 (笑いが止まらない)
田中 僕も語るときだってありますよ~!(笑)
蛭子 ごめんなさい、すぐ笑う癖があって。何でこんなにおかしいんだろう。
田中 しんどいこともあったけど、楽しい瞬間もあったという話でした(笑)。
蛭子 (まだ笑いが止まらない)
田中 もう少しだけ語らせてもらうと、今回、エッセイに書くネタは、思いついたらスマホにメモしていたのですが、蛭子さんは漫画を描かれていた時にはネタのメモってされていましたか?