昔話『花咲かじじい』の欲張りじいさんは「パワハラ上司」?やらかした大失敗から学ぶ

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グリム、イソップ、日本昔話  人生に効く寓話

『グリム、イソップ、日本昔話 人生に効く寓話』

著者
池上彰 [著]/佐藤優 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784121508065
発売日
2024/01/10
価格
968円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

昔話『花咲かじじい』の欲張りじいさんは「パワハラ上司」?やらかした大失敗から学ぶ

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

幼かったころ、童話や寓話を親に読んでもらったり、あるいは自分で読んだりした経験は誰にでもあるはず。いうまでもなくそうした童話の数々は、洋の東西や時代を問わず読み継がれてきたものです。

そしてその多くは「悪いことをすると、必ずあとでしっぺ返しがありますよ」ということを教えてくれる勧善懲悪ものでもあります。つまり私たちは童話を通じて、倫理観を形成してきたのでしょう。

ところが『グリム、イソップ、日本昔話-人生に効く寓話』(池上 彰、佐藤 優 著、中公新書ラクレ)の共著者である池上彰氏によれば、「大人になって読み返してみると、『これはどういう意味だろう』と頭をかしげたくなる内容の童話も決して少なくない」のだとか。つまりは、勧善懲悪になっていないケースもあるということです。

では、現代の私たちは、こうした童話からどのような「教訓」を読み解けばいいのか。そんな問題提起を佐藤優氏から受け、実現したのが本書です。

改めて読んでみると、日本で読まれている海外の童話の多くは、日本風にアレンジされているものが多いことに気づきました。

また原作は子どもに読ませるには恐ろし過ぎる内容を含んでいるものも多いのです。私たちは、原作が持つ棘を抜いて漂白されてしまったものを読まされていたことに気づきました。

さらに一見微笑ましく見えたような童話も、佐藤氏の手にかかると、実に恐ろしいものに思えてきます。また、実は現代に通じる重要な内容を含んでいることに気づかされたりの数々でした。(「はじめに」より)

それは、「単なる童話」と片づけるわけにはいかない内容を含んでいるからこそ、「人生訓」の古典として受け継がれてきたのだと解釈することもできます。そこで本書では、誰もが知るさまざまな童話を、従来とは異なった角度から読み解いているのです。

きょうは第二章「競争社会の作法」内の7「インセンティブなしでは部下は動かない 『花咲かじじい』に注目してみたいと思います。

『花咲かじじい』のあらすじ

むかしむかしあるところに、正直なおじいさんとおばあさんが住んでいた。ある日、2人が子どものように可愛がっていた犬の白が「ここ掘れ、ワンワン」と鳴くので、掘ってみると、大量の小判が出てきた。それを聞いた隣の欲張りじいさんとばあさんが、白を借りて同じことを試みるが、掘っても出てくるのは石ころや汚いものばかり。怒った欲張りじいさんは、白を殺してしまう。

正直じいさんとばあさんは、白の死を悲しんで庭に埋め、その上に小さな松の木を植えた。すると、松の木はみるみる育ち、巨大な木に姿を変えた。白の形見だと思った2人は、その松から臼と杵を作って餅をついた。不思議なことに、杵でつくほど米があふれ出し、台所中が米でいっぱいになった。

それを知った欲張りじいさんとばあさんは、今度は臼を借りて同じように餅をつくが、臼からはまた汚いものがあふれてきた。怒ったじいさんは、臼を壊して薪にして燃やしてしまった。

がっかりしながら灰を集めて帰宅した正直じいさんが、白のお墓のところまで来ると、どこからともなく温かい風が吹いてきて灰をまき散らし、それを被った桜や梅の木が、冬のさなかなのに花をつけ、満開の景色となった。

気をよくした正直じいさんが、往来で灰をまいて花を咲かせていたところに殿様一向が通りかかり、褒め称えた上にたくさんのご褒美を下さった。

別の日、欲張りじいさんがその真似をして灰を振りまくと、花は咲かずに殿様や家来に降りかかった。腹を立てた殿様は、欲張りじいさんを縛らせ、牢屋に入れてしまった。([「花咲じじい」楠山正雄] 91〜92ページより)

欲張りじいさんの失敗の本質

佐藤氏は、まず最初の「ここ掘れ、ワンワン」の部分に関する欲張りじいさんの間違いは、「犬の白になにもやらずに、小判という成果だけを求めたこと」だと指摘しています。たしかに欲張りじいさんは、白を子どものようにかわいがって世話していた正直じいさんたちとは対照的に、嫌がる白を無理やり畑に引っぱってきたわけです。

佐藤 白の立場になってみれば、正直じいさん夫婦とは雇用関係があります。ですから、対価に従って奉仕するのは、ある意味当たり前なのです。そうでなければ、ゴミのような仕事しかしないのもまた、当然の話ではないでしょうか。

池上 だから、要するに「横取りはいけません」という話ですね、これは。

佐藤 そうです。自分がろくな努力もせずに、部下の成果を我が物にしたりしていると、後でひどい目に遭うわけです。(93ページより)

白が正直じいさんにもたらしたのは、対価にくらべるととてつもなく大きな成果です。しかし、これはビジネスの現場にもあてはまること。きちんと雇用して面倒をみていれば、ある日、社員が信じられないような大商談をまとめて帰ってくるというようなことも考えられるのですから。

池上 たとえ雇用していても、いやいや働いているような状態だったら、大きな成果は見込み薄ですね。いい仕事をさせたかったら、ちゃんとインセンティブを与えないと。

佐藤 それも大事なところです。

池上 「餌」はもちろん重要ですが、これは金銭的な報酬とは限りません。例えば、上が「あれやれ、これやれ」と言うような環境では、やる気は出ないでしょう。提案したことを「よし、やってみろ」と言われれば、徹夜してでもやりますよね。(94ページより)

欲張りじいさんはパワハラ上司、管理職に向かない

ともあれこの欲張りじいさんは、欲張りなだけではなくかなり直情的な人物でもあります。

気に入らないことがあると頭に血が上って暴力的な振る舞いをするというのは、会社でいえば典型的なパワハラ上司。少なくとも、管理職には向いていないタイプです。

佐藤 中でも、怒りに任せて白を殺してしまったことは、取り返しのつかないミスでした。だって、この犬は金銀財宝のありかを探す潜在能力を持っていたわけでしょう。一度の失敗には目をつぶって、いい餌を与えて育てるとかしたら、自分も隣のおじいさん、おばあさんのような僥倖(ぎょうこう)にめぐり合えたかもしれないのに、自分でそのチャンスを消すようなことをしたわけです。(95ページより)

これを会社にあてはめるなら、部下がミスをしたことに激昂するあまり、その部下が持っている潜在能力を見抜くことなく潰してしまう上司のようなもの。しかも、そういう人は、自分が間違いを起こしたことにすら、気づけなかったりもします。

だから知らず知らずのうちに同じことを繰り返すことになるわけですが、それは失うもののほうが多いやり方。まず間違いなく、自分自身に対する信頼すら失っていくことになるのですから。

いずれにしても、このように読み解いていくと、慣れ親しんだ「花咲かじじい」でさえ仕事に活用できるわけです。(92ページより)

佐藤氏は、「100年、200年と語り継がれてきた童話や昔話というのは、すごいコンテンツ」だと表現しています。つまりそれらは多くの場合、現代に生きる私たちにとってのテキストにもなりうるということ。だからこそ本書を読み、日々の生活に活かしてみたいものです。

Source: 中公新書ラクレ

メディアジーン lifehacker
2024年1月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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