『頭のいい人だけが知っている勉強の落とし穴』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
【毎日書評】4ステップで学びが深まるドラッカーが提唱する大人のための勉強法
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
社会に出てからも勉強が必要となることは少なくありません。『頭のいい人だけが知っている 勉強の落とし穴』(遠越 段 著、総合法令出版)の著者はそれを「大人のための勉強」と表現していますが、当然ながら学校の勉強とは大きく異なってもいます。
つまり「大人のための勉強」は、自分の選択と決断によって人生を進めていくためのものだということ。したがって「おもしろい」ものであり、「楽しい」ものであり、すべて「役に立つ」もの。そればかりか、「快楽」にもつながるようです。
脳にとっては、新しい情報を学ぶことは報酬刺激なのです。要するにドーパミン(快感、幸せなどを感じる脳内ホルモンの一つ)の放出をもたらす刺激なのです。
したがって、勉強することは、科学的にいっても快楽につながるのです。(「はじめに」より)
ただし著者によれば、学生のときと大人になってからでは脳の仕組みが違うことがわかっているのだとか。脳が器官として完成に近づくのは、30代になってからという研究もあるのだそうです。
だとすれば、学生時代の勉強法をなぞるのではなく、大人のための勉強法をみにつける必要がありそうです。そこで本書では、限られた時間で、楽しく結果を出す勉強法が明らかにされているわけです。
より良い人生を送るためにも、勉強する習慣を一日も早く身につけてください。勉強で得た「知識」があなたの人生を変えてくれるはずです。(「はじめに」より)
こうしたメッセージが込められた本書のなかから、きょうは第3章「大人のための勉強法」に焦点を当ててみたいと思います。
ドラッカーの勉強法:4つのステップ
著者はここで、『ドラッカーはなぜ、マネジメントを発明したのか』(ジャック・ビーティ 著、平野誠一 訳、ダイヤモンド社)を筆頭とする複数の関連書籍を参考にしながら、世界中のビジネスマンに影響を与えてきた経営学者であるP・F・ドラッカーの勉強法をまとめています。
その勉強法には4つのポイントがあるそうで、まず第一は「生涯の目標とビジョンを持ち、それを追い求め続ける」ということ。きっかけは、18歳だったドラッカーがヴェルディのオペラを聴いて感動したことだったそう。
オペラを聴いた後、ドラッカーはこんなすばらしい曲を作ったヴェルディはどんな人物かを調べたそうです。
すると、その曲はヴェルディが80歳のときの曲で、ヴェルディは次のように述べています。「音楽家としての全人生において、私は常に完全を求めてきた。そしていつも失敗してきた。私には、もう一度挑戦する責任があった」(『挑戦の時』)(69ページより)
ドラッカーはこのことばに感銘を受け、「いかに歳をとろうとも、決してあきらめず、目標とヴィジョンを持って自分の道を歩き続けよう。そしてその間、失敗し続けたとしても完全を求めていこう」と決めたというのです。
勉強法の第二は、「3年ごとに新しいテーマについて勉強する」ということ。つまり、あるひとつのことに集中して勉強するわけです。そうすればたくさんの知識を仕入れられるだけでなく、新しい体系やアプローチ、手法を手にすることができるからです。
第三は、「目標ややるべきことを紙の上に書きとめる」こと。
これはドラッカー自身が、3、4年ごとに研究するテーマの一つとした、中世における「イエズス会」と「カルヴァン派」から学んだことです。
なぜこの二つの会派が伸びたかというと、「何をなすべきか」「結果はどうであったか」を常に書き留めていたからだそうです。(70ページより)
つまりそうすれば、「なにについて、どのように改善する必要があるか」「自分ができないこと、しがたってはならないこと」がわかるわけです。
そして第四は、「毎年、決めた時期に一年間の反省をチェックする」こと。ドラッカーはこの方法を、若いころに働いていたフランクフルトの新聞社の編集部から教わったそうです。
それを10年後に思い出し、毎年夏に2週間の自由な時間をつくり、一年間の反省をしたというのです。そして、「集中すべきことはなにか」「改善すべきことはなにか」「勉強すべきことはなにか」について考えたのです。(68ページより)
得意なもの、好きなものを徹底的に攻略していく
勉強の習慣がない状態のまま、自分が苦手なもの、嫌いなものから勉強したとしても続けるのは困難。そこで著者が勧めているのが、「得意なもの、好きなものをひとつ見つけ、それを徹底的に攻略していく」という方法。はじめからいろいろなものに手を出してはいけないというのです。
私の友だちの子どもにこんな例があります。
成績が悪くて学校嫌いな子どもがいました。この子は何に関心があるかというと猫にだけ関心がありました。野良猫をいくらでも拾ってきます。
ある日、英語で書かれている猫の雑誌が落ちていました。その子どもは目をかがやかせて、その雑誌を拾って見入りました。子どもは英語がどんどん読めるようになりました。子どもが、猫に関する英語ならどんな英語でも読めるようになるまで時間はかからなかったのです。(90ページより)
この子の英語の成績はクラスで一番になり、すっかり自信をつけたのだそうです。
そればかりか、そののち数学もクラス一になり、他の教科もぐんと伸びることに。そして、東大の法学部に入学したのだといいます。
このように、自分の得意なもの(好きなもの)を忘れずに、コツコツと学び強化していくと、他のものにまで影響していくのです。(90〜91ページより)
好きなことをしているときには、努力しているとは感じないはず。つまり、ただ好きだからやっていると感じることができればしめたもの。あとは、それをとことん追求していけばいいということです。(88ページより)
著者は本書のなかで、数多くの勉強法を提案しています。したがって読者は、そのなかから自分に合ったメソッドを選び、試してみればいいのです。そうして知識やノウハウを蓄えていけば、やがてそれらを無理なく仕事に活用することができるようになるかもしれません。
Source: 総合法令出版