パワハラ、突然の解雇…仕事のトラブルにはどう立ち向かう?人生サバイブ術

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死なないノウハウ

『死なないノウハウ』

著者
雨宮処凛 [著]
出版社
光文社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784334102265
発売日
2024/02/15
価格
990円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【毎日書評】パワハラ、突然の解雇…仕事のトラブルにはどう立ち向かう?人生サバイブ術

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

「失われた30年」で、日本が貧しくなったことは誰もが実感していることだろう。先進国で唯一、30年間給料が上がらず、一人あたりのGDPはその間、7割程度に落ち込んだ。

賃金は増えないのに、国民負担率(社会保険料と税金の合計が国民所得に占める割合)は上がり続け、5割に迫る勢いだ。80年代は3割だったのに、である。これにはネット上で「五公五民」(江戸時代の年貢の負担率を示す)という悲鳴が上がっている。収穫した米の五割を年貢とし、残り五割が手元に残る状態で、幕府の財政悪化を理由に「四公六民」から「五公五民」になった途端、日本中で一揆が起きるようになったという。

しかし、令和の現在、一揆が起きる気配は微塵もない。(「まえがき」)より

死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(雨宮処凛 著、光文社新書)の冒頭には、このような記述があります。

しかも厚生労働省の簡易生命表(22年)によれば、日本人の平均寿命は男性が約81歳、女性が約87歳。平均寿命までまだ多くの時間が残されている方は多いはずで、にもかかわらず今後も、将来に対しての不安だけが積み上がっていくことになるわけです。そこで不安を解消するべく、さまざまな情報を集約したのが本書。

働けなくなったら。お金がなくなったら。親の介護が必要になったら。それで仕事を続けるのが難しくなったら。そして自分が病気になったり入院した時、頼る人もいなければどうしたらいいのだろう?

そんな疑問から始まった取材は、がんになった場合に使える制度から「親の介護」を考えた時にまず相談する先、高齢者施設の種類と平均月額・平均入居一時金額、はたまた自分が死んだあとのペットの世話やパソコンやスマホの処分、それだけでなく遺言や散骨の方法まで網羅する結果となった。(「まえがき」より)

きょうはそのなかから、第2章「仕事――プレカリアートユニオン執行委員長・清水直子さんに聴く」に注目してみたいと思います。

誰でもひとりから入れる個人加盟の労働組合

ここで著者の取材に応じている「プレカリアートユニオン」は、誰でもひとりから入れる個人加盟の労働組合。2012年に、執行委員長の清水直子さんを筆頭とする十数人で結成されたそうです。

その背景にあるのは、非正規など不安定な状態で働く人が職場の労働組合にもなかなか入れないという現実。そのため違法な解雇などに遭っても相談先がわからず、泣き寝入りせざるを得ない人が多いため、その改善を目標としているわけです。

ちなみにプレカリアートとは、「不安定な労働者」という意味の造語。非正規雇用で働く人はもちろん、長時間労働や過労に晒される正社員も含む概念だ。

よってプレカリアートユニオンには契約社員、派遣、アルバイト、パートなどの非正規だけでなく、正社員も入ることができる

現在、組合員は約300人。執行委員長である清水さんはこれまで約500件の相談を解決に導いてきたというからすごい。(83〜84ページより)

同ユニオンのサイトの「解決事例」に列挙されているのは、コールセンターや歯科クリニック、運送業や電子機器メーカー、社会福祉法人、大学などあらゆる業種。そういった職場で働く人たちから相談を受けて交渉した結果、和解による解決金支払いや待遇改善、賃上げ、未払い賃金の支払い、無期雇用への転換などを勝ち取ってきたのだといいます。

ここでは、2つの相談に焦点を当ててみましょう。(83ページより)

上司のパワハラで退職したが…

上司のパワハラでメンタルを病んで退職するというケースは少なくありません。しかも当の上司は引き続き元気に働いていたりすれば、理不尽だと感じても無理はないでしょう。このことについて、清水さんは次のように述べています。

「こういうケースでモヤモヤしている人は多いですが、これは何を獲得目標、ゴールにするかですね。まずは、パワハラを受けた時点で、録音などの証拠を持って相談に来てほしいです」

証拠としてもっとも強いのは音声だという。

あとはメールですね。とにかく証拠を取る。そのあとどうするかは後から決めてもいいので、まず証拠を集めておく。証拠がないと解決しづらいんです」(106ページより)

また、メンタルを病んだ場合は、退職の前に休業を考えてほしいといいます。病院へ行って診断書を出してもらってひとまず休むことで、つらい状態から一回離れ、落ち着いて自分を癒す必要があるということ。

なお休業して交渉する場合、組合はパワハラの責任を追求し、謝罪や補償、再発防止を講じることなどを要求するそう。交渉を通じ、「なにがダメなのか」を会社側に理解してもらい、責任を取らせ、受けた損害によっては補償をさせ、就労環境を整えるわけです。

ただし、会社によってはハラスメント相談窓口が形骸化しているところもあるようです。そればかりか、社長や、ハラスメントをしている当事者が相談窓口だったりすることも。

そこで交渉のなかでは、窓口を複数にすることを求めたり、「そもそも窓口になっている人はハラスメントに対応するためのトレーニングを受けているのか」を確認し、受けるように要求もするそうです。

そうやって安心して戻れる環境を整えつつ、復職できる状態になったら復職する、それもひとつの解決のあり方だということ。

ただし、「もうそんな職場にいたくない」ということもありうるでしょう。

自分が深い傷を負ったのにハラスメントしていた上司が元気に働いていることが納得いかないというのは、気持ちはとてもわかるのですが、復讐はゴールにすべきではないと思います。再発防止や謝罪、補償はゴールにできますし、何を要求するかの整理は組合に相談に来てもらえればできると思います。(107〜108ページより)

組合に入ったり、なにかを主張する気力もない状態で退職する際は、退職理由に「ハラスメントを受けた」としっかり書き込むことも重要。

ポイントは、できるだけ明確に、いつ、誰からどういうハラスメントを受けたので退職するかを書くこと。そして、動けるようになったら動けばいいのです。(106ページより)

外資系での解雇は仕方ない?

いわゆる外資系には、簡単に解雇されてしまうというイメージがあるのではないでしょうか。しかし、この点について清水さんは次のように説明しています。

外資系の雇用契約書には、会社と本人、どちらかが労働契約の削除を申し出たら、つまり会社が即解雇できるという文言が入っていることがあります。

でも、それは日本の労働基準法をまったく無視したものなので、日本では無効です。外資系でも当然日本の法律を守らなければいけません」(116〜117ページより)

これは意外と知られていないことかもしれません。だからこそ、自分を解雇しようとしている動きを感じたときには、「辞める」とは口に出さずにまずは録音し、組合や労働弁護士に相談に行くべきだといいます。(116ページより)

さまざまな分野の専門家への取材をもとに、「死なないノウハウ」を凝縮した一冊。死なないどころか人は「必ず死ぬ」からこそ、そのときのために読んでおくべきだと感じます。

Source: 光文社新書

メディアジーン lifehacker
2024年3月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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