『「交渉」が最強の武器である』
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【毎日書評】「交渉」に苦手意識があるなら、まずはこの3つを意識してみて
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『「交渉」が最強の武器である』(伏見 豊 著、総合法令出版)の著者によれば、交渉はすべての人間関係に不可欠。交渉ごとは日常生活にあふれているため、交渉術を身につけておけば、仕事、家庭、育児、恋愛、ご近所づきあい、友人関係などさまざまな場面で役に立つということです。
そもそも2人以上の人間が集まった場合、必ず交渉が必要となるもの。そのため、交渉を一度もしたことがないという人は実際のところいないというのです。
しかし、交渉と聞くと商談のイメージを持ってしまい「難しそう……」「自分には関係ないんじゃないか……」と連想してしまう方がほとんどです。
「交渉」という言葉がほとんど仕事でしか使うことがないので、これは仕方がありません。(「はじめに」より)
そこで本書では、できるだけ日常生活に交渉術を取り入れられるようにと配慮をしつつ、わかりやすい事例を交えながら解説をしているわけです。当然のことながら、実際の商談の場で使えるメソッドも多数紹介されています。
ちなみに著者には、交渉について考えるなかでたどり着いた結論があったのだとか。
交渉にあたり、極度に人間関係を重視する交渉をしたり、その反対に相手の立場をまったく考えない交渉をしたりするのは、「落としどころ」を考えていないことから生じる問題であったことに気がつきました。
そして「落としどころ」を持っていれば、交渉を1つの問題解決のプロセスとして考えることができたのです。それに気づいてからは交渉術で悩むこともなくなりました。
勝ち負けにこだわっていた交渉から、問題解決のための交渉へと変化させたのです。(「はじめに」より)
こうした著者自身の気づきから生まれた本書のなかから、きょうは第6章「相手の信頼を得る交渉のテクニック」に焦点を当ててみたいと思います。
1. その人の価値観やアイデンティティを知る
ここで著者は、「相手のことを知っているとはどういうことか」について言及しています。
ある心理学の調査によれば、「相手を知らない」という境界線と「相手を知っている」という境界線は、その人の個人的な関心事や価値観、アイデンティティを知っているかどうかで決まるといわれています。(179〜180ページより)
つまり、「この人はしっかりしていて寛大だ」とか、「人あたりがよく、とてもやさしい」「物静かで地味な人だ」というような評価だけでは不充分だということ。そういう情報をよりどころにするだけでは、その人のことを知らないのと同じだというのです。
価値観やアイデンティティからは、その人の行動パターンを類推することができるでしょう。しかし表面的な情報だけをもとに交渉の戦略を練ってしまうと、結果的には手痛い目に遭ってしまうかもしれません。
なぜなら、価値観やアイデンティティを理解できなかったとすれば、相手の行動を多少なりとも不可解に感じてしまうはずだから。そのため相手の考えていることを理解できず、交渉の戦略に関する判断を誤ってしまう可能性があるわけです。
けれども価値観やアイデンティティを理解することができれば、交渉相手の行動の裏側にある意味を理解できるようになります。また、考え方もある程度は予想することができるはず。さらには、その人の話の進め方も理解できるため、交渉もスムーズに進めることができるのです。
そういう意味で、交渉相手の価値観やアイデンティティを知ることは重要なのです。それどころか、相手との信頼関係を築くうえでも必要不可欠なことであるようです。(179ページより)
2. その人がどうありたいかを知る
たとえば、相手がどういう人物になりたいのか、どうありたいのかというのは非常に重要な情報です。もし、交渉相手が先輩風を吹かしたい、または器量人を気取りたいという人間であれば、土壇場で情に訴えるという方法は非常に有効になってきます。
一方で常に自分の言動や行動に自信がなく、絶えず相手の意見を求めていたいという人は、その人にとっての解決策というオブラートで包みながらその裏で自分の提案を行うという方法が有効になります。(181ページより)
このように、交渉相手の価値観やアイデンティティを知るのは、交渉戦略を考えるうえでとても有効だということ。では、それを知るにはどうしたらよいのでしょうか?
そのひとつとして著者が勧めているのが、質問をすること。
相手との親密な関係を築くためには、価値観や生きる丈の意味などに関する質問をすることが有効だというのです。もちろん交渉中にそういった質問をすることはできないでしょうが、ランチタイムやブレイクタイムに質問をすればいいようです。(181ページより)
3. 交渉の現場で取得できる情報も多い
もちろん、相手に関する情報を間接的に知ることもできますが、本当に大切なのは、実際に相手と会って、相手の価値観やアイデンティティを直接的に知ること。したがって、もし実際の交渉の前に相手と会うことができるのであれば、会っておくべきだといいます。
事前に会うことができないのなら、事前に予測していた相手の雰囲気と、実際に会ってみて感じた雰囲気との違いを感じ取ることが不可欠。相手の表情や雰囲気といった表面的な情報だけではなく、「こちらの質問に対してどういう答え方をするのか」といったようなことも考慮に入れておく必要があるわけです。
ポイントは、調査の情報に縛られず、先入観を持たないということ。
相手に対する先入観を持ったまま交渉することは、立場や価値観によって交渉することになってしまうので、自ら交渉の範囲を狭める結果になります。(187ページより)
事前に調査しておいた情報の信頼性を50%、実際に会って感じた情報の信頼性を50%にしておけば、先入観に陥らずに済むようです。(187ページより)
交渉は本来、関わる人すべてにメリットがあるものでないといけないはず。そのための解決策を見つけるために、本書を活用してみてはいかがでしょうか?
Source: 総合法令出版