「ドラマみたいに青春ってキラキラ?」自分らしさを探してもがく高校生を描いた青春ミステリーの制作秘話

インタビュー

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まだ終わらないで、文化祭

『まだ終わらないで、文化祭』

著者
藤 つかさ [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575246964
発売日
2023/11/22
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

中学生の頃の自分が書いた文章から着想を得た「自分らしさ」について語り合うシーン。小説推理新人賞作家の第二作となる青春ミステリー 『まだ終わらないで、文化祭』藤つかさインタビュー

[文] 双葉社

 2020年に小説推理新人賞を受賞し、翌年『その意図は見えなくて』で単行本デビューを果たした藤つかさ氏。受賞作にも登場する同じ高校が舞台の長篇『まだ終わらないで、文化祭』が刊行されました。「青春」という言葉で語りきれない十代ならではの痛々しさや鬱屈とした感情にも焦点を当てた青春ミステリーです。著者の藤氏に制作秘話など語ってもらいました。

■十代特有の「しんどさ」が小説を書くきっかけに。あの頃の自分に刺さる物語を書くのが指針になっている

──デビューから第2作となる本作は2日間の文化祭が舞台です。執筆のきっかけを教えてください。

藤つかさ(以下=藤):前作と地続きの作品を、とお話をいただいた際、前作より青春小説に寄った物語を書きたいとまず思いました。

 青春と呼ばれる時期にいる高校生が、自身の胸の内を探ったり、他者との関係を構築する過程を一度きちんと書いてみたかったのです。

 青春といえばやっぱりイベント事だろうと考え、文化祭を舞台にしてみました。文化祭を3日間にして祭りの雰囲気や人間ドラマを深く描くことも考えましたが、ミステリー部分とのバランスを考えて2日間にしました。

──小さな事件がいくつか起きながら、最後には文化祭全体を覆うような驚きが生徒達の前にあらわれます。本作の特徴の一つだと思いますが、構想の背景があればお教え下さい。

藤:これは私の好みの問題なのですが、基本的に物語は群像劇が好きです。一つの出来事に対し色々な人物の思惑が交錯する、という構成に現実味や面白さを感じます。

 ですので、複数の登場人物の視点で描くというところを出発点に構想を進めました。そこから徐々に具体化し「文化祭という一つのイベントで、全ての視点人物が何かを解決し成長する」という作りにしようと決めた結果、大きな事件だけでなく小さな事件をちりばめる作りになりました。

──前作と違って、女生徒の視点で物語は進んでいきます。難しさはあったでしょうか?

藤:最初に文字に起こした時は男子生徒もたくさんいたのですが、編集の方にアドバイスをいただいた結果、視点人物は女子生徒だけになりました。

 女子生徒を一人称で書くのは、正直なところかなり難しかったです。まずキャラクターを描き分ける地の文でつまずきましたし、所作や容姿の描写にも気を遣いました。

 ですが、出来上がった物語を見てみると、女子生徒だけの方が明らかにクライマックスを綺麗に見せられていると思います。

──今回も個性豊かな高校生が登場します。書いていて楽しかったり気に入っていたりする登場人物とその理由を教えてください。

藤:書いていて楽しかったのは艮(うしとら)さんです。彼女の友人で、同じ軽音学部に所属する望也君の仕草も書いていて心地よかったですし、一番気に入っています。

 今回は色々な「自分らしさ」について書いていますが、艮さんの悩みやその対処法は真っすぐで、彼女にも望也君にも共感できました。艮さんが児童養護施設でボランティアをする理由や、望也君が彼女と仲良しでいつづける理由に思いをはせるのも楽しかったです。

 一番書くのが難しかったのは、主人公で、最初に提示される謎を解く役目を背負う市ヶ谷さんです。結構まともなことを言っているのに、損な役割を押し付けてしまい申し訳ないな、と思いながら書いていました。

──藤さんご自身の高校生活からは時間が経っていますが、大人から見れば「青春」まっただ中と思われる人間を描くときに気をつけていたことはありますか?

藤:十代の頃、青春小説を好んで読みました。当たり前ですが、刺さるものもあればそうでないものもありました。私が今こうして青春小説を書く際には、十代の頃の自分に刺さる物語を書く、ということを指針にしています。 

 そのため、よく参考にするのは十代の頃自分が書いた物語です。今回の物語のクライマックスで男子生徒と女子生徒が「自分らしさ」について語り合うシーンがありますが、あれは十代の頃自分が書いた文章をヒントにしました。

 大人から見ると、些末なことを大げさに語り合っているようにも思えます。しかしきっと、このシーンは中学生の自分には刺さっているはずです。

■ドラマみたいに青春ってキラキラしているだけ? 十代からの疑問も物語のエッセンスに

──前作と同じく決してキラキラしているだけではない「青春」を書かれていると思いました。自身の経験も反映されているのでしょう?

藤:自分の十代の頃を振り返ってみると、とても恵まれていたと思います。のどかな田舎で学校生活を送り、家族にも友人にも恵まれていました。いい思い出がたくさんあります。

 それでも、やはり青年期特有のしんどさはありました。学校から「自分の感想を述べよ」という類の課題が出る度に、「自分は本当は何を思ってるんだろう……?」と途方に暮れた記憶があります。

 いわゆるアイデンティティの拡散なのですが、そんなことを考えるのはとても息苦しく、同時に物事の核心に近づいているような確実な手ごたえがありました。物語を書き始めたきっかけも、そんな思考を言語で残しておきたいと思ったからです。

「ドラマや漫画で言うほど、青春ってキラキラしてるだけかな?」というのは、十代の頃から一貫して思っていることではあります。

──物語中、フジファブリックの「若者のすべて」が印象的なシーンで使われています。藤さん自身にとっても思い入れのある曲なのでしょうか?

藤:誰しも「これは自分のための作品だ!」という衝撃的な出会いがあると思います。私の場合、小説では中島敦やシャーウッド・アンダーソンの作品がそうでしたし、漫画では幸村誠さんの作品がそうです。そして、音楽ではフジファブリックでした。

 高校生の頃、義兄から譲り受けたウォークマンにフジファブリックの曲が入っていて、その歌詞と歌声に衝撃を受けました。音楽番組に流れる曲を適当に聴いていた当時の自分にとって、感傷的な歌詞と声色は明らかにオリジナルに思えました。すぐに音楽に詳しい友人にアルバムを借り、その時「もうボーカル死んどるで」と聞いて二重の衝撃でした。

 フジファブリックの曲の中でも「若者のすべて」は妻との最初の会話のきっかけでもありましたし、結婚式でも流すほど思い入れのある曲です。

──今後、書いていきたいテーマやジャンルがあれば、お教えください。

藤:今後も学校を舞台に話を作っていきたいと思っています。一つの小さな空間に、考えの違う様々な人がいる、という舞台で物語を紡いでいきたいです。

 特に大学を舞台に物語をつくってみたいと構想しているところです。今度はあまり青春の痛みに焦点を当てたものではなく、もう少し肩の力の抜いた人間ドラマを描いてみようと思っています。

 いずれはサスペンスやファンタジーにも挑戦したいと思っています。

──これから本作を読む方に向けて、メッセージをお願いします。

藤:インタビューを読んでいただき、ありがとうございます。今作『まだ終わらないで、文化祭』は前作『その意図は見えなくて』と同じ高校を舞台にした物語ですが、今作だけでも楽しんでいただけるよう構成しました。

 爽やかな青春作品では少し物足りない、という読者の方に、ぜひ読んでいただきたいと思います。

 表紙イラストやデザインも大変美しいので、お手に取っていただければ幸いです。

 ***

藤つかさ(ふじ・つかさ)プロフィール
1992年兵庫県生まれ、大阪府在住。2020年に「見えない意図」で第42回小説推理新人賞を受賞。改題した同作を含む『その意図は見えなくて』で単行本デビュー。

COLORFUL
2023年12月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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