『「戦後日本」とは何だったのか 時期・境界・物語の政治経済史』松浦正孝編著

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「戦後日本」とは何だったのか

『「戦後日本」とは何だったのか』

著者
松浦 正孝 [編集]
出版社
ミネルヴァ書房
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784623097166
発売日
2024/03/15
価格
9,350円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『「戦後日本」とは何だったのか 時期・境界・物語の政治経済史』松浦正孝編著

[レビュアー] 清水唯一朗(政治学者・慶応大教授)

79年の功罪 平和への示唆

 戦後もずいぶん長くなった。明治維新から敗戦までが七七年、敗戦から今年で七九年である。戦前より戦後が長くなったといってもよいだろう。

 もはや戦後ではないと言われたこともあるが、そう簡単に区切りは付かない。政治で、経済で、社会で、あらゆる場所で戦後は続き、消えたかと思うとまた現れてくる。まるで鵺(ぬえ)のようだ。

 多くの視座、長い射程で臨まなければ戦後を捉えることはできない。それに踏み切り、五年をかけた議論から生まれた二四の戦後論が収められている。

 戦後はいつまでか、戦争はどう戦後を生んだのか、それはいつ切り替わったのか。戦後の概念から暮らしの実態まで、国内政治から国際関係までを対象とする各論は含意に富み、読ませる。通説を覆す珠玉の論文も複数ある。

 では、戦後の転換点はいつか。各論は、一九五八年、七二年、八五年、九三年などそれぞれ異なる点を示す。統一した見解が見出(みいだ)されるわけではない。

 だが、通読していくとひとつの流れが見えてくる。失敗したと見た分野では早期に転換が生じて革新が生まれ、成功したと見られた分野ほど戦後が長く続き、改革が進まなかった経路依存の歴史である。戦前からの連続も絡んでいる。長い戦後の功と罪を考える上で示唆的だろう。

 戦前、日本は日清、日露、第一次世界大戦、満洲事変、太平洋戦争と、一〇年置きに国家規模の戦争を経験してきた。戦後は一〇年ごとに更新され、次々と戦後が積み重なることによって転換が進められていた。

 長い戦後にあっては、戦前のように受動的に改革の機を得ることはできない。変化の糸口は能動的につかむものとなった。そうした視点から読みなおすと、本書には私たち自身の手で戦後を続けるための示唆が詰め込まれている。

 「『戦後』というコトバを使える間だけが人々は幸福なのです」と本書は引く。新しい戦前に至らず、戦後の幸福を担う。思いを新たにする春にこの一冊と出会えたことをありがたく感じる。(ミネルヴァ書房、9350円)

読売新聞
2024年4月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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