『どう生きる? 人生戦略としての「場所取り」の教科書』
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【毎日書評】人生を前向きに変える。戦略的「勝てるポジション」マネジメント
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
社会で成功している人は、なぜ成功しているのか?
『どう生きる?ーー人生戦略としての「場所取り」の教科書』(藤原和博 著、祥伝社新書)の著者によれば、その秘密は「才能」や「資質」ではなく、その人に合った「場所取り(ポジショニング)」と「タイミング」にあるのだそうです。
場所取りとは組織上の位置ではなく、「自分をどの場所・陣地に置き、キャリアとしてどんなスキルを活かし、個人としてどう生きていくか」ということ。そして、その場所が社会や人々の意識の流れに乗っているかが「タイミング」。タイミングは創り出すことが難しくもありますが、「場所取り」=“自分が陣取る場所をマネジメントすること”はできるはずです。
それは、組織内でも可能です。会社で、主体的にイニシアティブを取って仕事をしたり、自分に合った形で組織をリードしたりしている人がいませんか。組織のなかで個人としてふるまえる「組織内個人」とも言える存在で、場所取りがうまい人の典型例です。
キャリアが終盤にさしかかり、定年が近づけば、組織に守ってもらえなくなりますから、自分の陣地を決めておかねばなりません。組織を離れても、自分の陣地で楽しみを得て、食い扶持を得ることは、きわめて重要なのです。(「はじめに」より)
逆にポジショニングができない、すなわち自分が陣取る場所をマネジメントできなければ、自分をコントロールできない人生を送るしかありません。
だからこそ「どの場所に陣取るか」が重要な意味を持つわけです。では、そのためにはどうすればよいのでしょうか? その問いに対する答えが示された本書のなかから、第2章「勝てそうな場所を探して、陣地を作る」に焦点を当ててみたいと思います。
エネルギーをもらえる仕事、奪う仕事
「場所取り」の基本は「勝てそうな場所を探して陣地をつくる」こと。
誰も旗を立てない場所に、「ここは私の場所だ」と「面」を取ればいいわけで、そのための1つ目のキーワードが「エネルギー」。逆にいえば、エネルギーを奪われるところに身を置いてはいけないということです。
エネルギーを奪う仕事にもいろいろありますが、たとえばそのひとつが、“「いい商品だ」と自分が納得できない商品”を売ること。心から納得できず、過去に蓄積した信用を食い潰すような仕事はエネルギーを奪うわけです。
逆に、エネルギーをもらえる仕事は、可能ならば、好きなことを仕事にすること。たとえば、自動車の運転が大好きな人にとって、テストドライバーは最高の職業でしょう。
信用が蓄積できる仕事も、エネルギーをもらえます。ウェディングプランナーは女性に人気の職業ですが、「あなたのおかげで幸せになれた」と言ってもらえたら、これに勝る喜びはありません。(54ページより)
仕事からエネルギーをもらえ、仕事自体がエネルギーを生む。そんな仕事もあるからこそ、そこに着目することは大きな意味を持つということです。(52ページより)
仕掛ける側、発信する側にまわろう
2つ目のキーワードは、「意識の転換」。意識を、受け手から送り手へと大きく転換するべきだというのです。
組織という観点で見れば、「会社人間、組織人」から「会社内『個人』、組織内『個人』」へ、ということになります。
組織のなかで、ただの会社人間、組織人としてふるまうのではなく、会社内「個人」、組織内「個人」に目覚める。言い換えれば、自営業者の意識で、自らの課題解決を行う仕事人になるということです。(71ページより)
つまり問われるのは、その立ち位置に価値があるか否かということ。
需要が多い分野で、なおかつ供給が少ない場所であるなら希少性が高まります。希少性は、「仕事の値段」を上げるうえでも有効。そういう意味で、希少なポジショニングを取ることが重要だということです。(67ページより)
仲間がおもしろがる場所を探す
3つ目のキーワードは「遊び場」で、つまりは仲間と一緒に遊べる場所、仲間がおもしろがってくれる場所を探そうという発想。
思い切ったチャレンジによって、ポジショニングを考えるわけです。
大事なのは「面白がってもらえるか」という視点です。
もっと言えば、「遊びの要素があるか」。(75〜76ページより)
各人の立場から協力しあえて社会貢献度も高く、おもしろそうな「遊ぶように貢献できる仕掛け」は、多くの協力者を巻き込めるというのです。(72ページより)
意識して環境を変える
4つ目のキーワードとして「環境」が紹介されているのは、「環境と経験だけが人を変える」と著者が信じているから。
自身の身を置く環境を変えれば、世の中の見え方が変わります。
また、自分の服装を変えると、周囲からの見え方が変わり、自分を変えることにつながります。
世の中の見え方が変わると人生のモードが変わり、コミュニケーションが変わる。
人生の豊かさは会話で決まりますから、コミュニケーションを変えることは、人生を変えることになります。(76ページより)
そういう意味で、環境が変わることには大きな意味があるのです。(76ページより)
「キャリアの大三角形」をつくる
5つ目のキーワードである「キャリアの大三角形」とは、自分を希少性のあるレアな存在にするための方法。
まず20代に、1歩目の足場を作ります。5〜10年で三角形の起点となる「左の軸足」を固めるのです。喩えるなら、バスケットボールでピボットする時の軸足です。
職種は問いません。営業でも、経理でも、ITでもいい。とにかく、続けられる仕事をマスターしましょう。(87〜90ページより)
30代では、2歩目を踏み出しましょう。新たに5〜10年かけて「右の軸足」を固めます。そうすれば、三角形の底辺を作ることができます。
たとえば、すでに営業の仕事をマスターしていたら、次は宣伝・広報の仕事に異動させてもらったり、ITの仕事をしたあとにマーケティングの仕事でそのスキルを活かしたりするのもよいでしょう。(90ページより)
40代の3歩目では、もう1万時間かけて三角形の頂点を作っていきます。
三角形の頂点ができると、それまでの線が面に変わります。(91ページより)
こうして「キャリアの大三角形」が完成すれば、社内でも転職市場でも、希少性を自身の武器として活用できるようになるわけです。(86ページより)
これからの時代は、これまでの常識が通用しなくなるはずです。そんななかで生き抜いていくためには、きちんと「場所取り」をできた人になるべきなのです。それを実現するために、ぜひとも本書を参考にしたいところです。
Source: 祥伝社新書