チャットモンチー「あっこびん」の赤裸々すぎて、丸裸になる随筆集

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おかえり

『おかえり』

著者
福岡 晃子 [著]
出版社
mille books
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784910215174
発売日
2024/04/16
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

チャットモンチー「あっこびん」の赤裸々すぎて、丸裸になる随筆集

[レビュアー] 夢眠ねむ(書店店主/元でんぱ組.incメンバー)

 福岡晃子の初随筆集。全編書き下ろし、というのがとても贅沢である。

 彼女が所属していた“伝説のバンド”チャットモンチーは、私ももれなくファンであった。自分の部屋の小さなテレビで見ていた深夜の音楽番組で流れた「シャングリラ」に心を奪われ、CDショップに走ったのを覚えている。既に出ている曲も聴き込み、「東京ハチミツオーケストラ」が上京したての19歳には刺さりまくり、iPodに入れて移動中に聞いては不安を勇気に変えていた。

 その後、彼女を“あっこびん”と呼ばせてもらう仲になったのだけれど、この随筆集に書いてあるのは何一つ知らないことばかり。彼女の名前のこと、人生で初めてのライブに行ったときのこと、のちに自分が加入するチャットモンチーのファンになった瞬間のこと。バンドの下積み時代の話に驚き、笑い、徳島に移住した経緯や暮らしぶりには手紙をもらったかのような気持ちで読んだ。そちらは今そんな感じなんだね、こっちはね……と自分も語り出したくなる、とにかく正直に溢れ出す感情を書き留めているような文章である。赤裸々すぎて、読んでいてこちらも丸裸になっていく感覚。家族の話もたくさん書かれている。ネットニュースでは「息子の発達障害を告白」と一行にまとめていたけれど、ここに記されている葛藤と愛情は、世の中に勝手に溢れる一行の“トピックス”で言い尽くせるわけがない。

 彼女の公式のプロフィールには(チャットモンチー済)と書かれている。元じゃなくて済、解散じゃなくて完結。この言葉選びやマインドが作品の随所にちりばめられていて、あっこびんの人のよさ、誠実さが滲む。一瞬でも下に行った目線がちゃんと前を向く。そうか、「東京ハチミツオーケストラ」の詞も彼女作だった。こんなに真っ直ぐ響く文章なのは、ずっとみんなのお守りになったり、心の深いところに届く詞を書いてきたからなのだろう。

新潮社 週刊新潮
2024年5月30日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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