何度逮捕されても痴漢をやめられない男性、過食嘔吐を繰り返す女性…彼らに迫るインタビューが圧巻のノンフィクション

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伴走者は落ち着けない―精神科医斎藤学と治っても通いたい患者たち―(叢書クロニック)

『伴走者は落ち着けない―精神科医斎藤学と治っても通いたい患者たち―(叢書クロニック)』

著者
インベカヲリ★ [著]/インベカヲリ★ [著]/インベカヲリ★ [著]
出版社
ライフサイエンス出版
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784897754796
発売日
2024/05/10
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

依存症患者にとことん付き合う「魔術的」精神科医、空前絶後の仕事

[レビュアー] 篠原知存(ライター)


逮捕されてもやめられない…依存症治療に取り組む医師を取材

 他人との関係に過剰に寄りかかる「共依存」や成長期の家庭環境によるトラウマを抱えた「アダルト・チルドレン」といった概念を日本に紹介した精神科医の斎藤学(さとる)。半世紀にわたって依存症治療に取り組んできた独自の手腕を「魔術的」と呼ぶ人もいるという。医療機関としてのクリニックは閉じたものの、現在も家族機能研究所という施設で患者と向き合い続けている。

 斎藤を頼ってくるのがどんな人々で、どのように治療が行われているのかを取材したのが本書。著者は、無差別殺傷犯のルポなどを手掛けてきたノンフィクション作家だ。

 何度逮捕されても痴漢行為を止められない男、吐くために食べて過食嘔吐を繰り返す女、死んだ父親を生き返らせて殺したいと語る男、窃盗癖、引きこもり……さまざまな症状を抱える患者が登場する。彼らの心奥に迫るインタビューが圧巻。患者から見た斎藤の人間像が浮かび上がるのと同時に、現代社会の「生きづらさ」が可視化される。

 目からウロコだったのは、患者の症状や行動を個人的な問題とは考えず、家族や社会を成り立たせるために症状が起きている、とする斎藤流の解釈。そう考えることで世の中の見え方はガラッと変わってくる。

 暴力や抑圧、孤立などハードな体験談が並んでいるにもかかわらず、暗い気分にならずに読めたのは、斎藤をはじめとする取材対象者から、多様な生き方を肯定する大らかさとユーモアが感じ取れるから。特に斎藤の言動は一般的な医師のイメージとはかけ離れている。こんなことをさらっと言ったりして。

「その人が嫌になるまで、お付き合いする」「お付き合いであって、治療はしていません。治しているのは患者さんが自分で治している」

 誰にも真似できない空前絶後の仕事だろう。依存症なんて私には関係ない、なんて思ってる人がいるとしたら、ぜひ読んでもらいたい。

新潮社 週刊新潮
2024年6月6日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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