『嘘(うそ)つき姫』坂崎かおる著

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嘘つき姫

『嘘つき姫』

著者
坂崎 かおる [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784309031781
発売日
2024/03/27
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『嘘(うそ)つき姫』坂崎かおる著

[レビュアー] 宮内悠介(作家)

考察誘う 掌・短・中9編

 二〇二〇年、「リモート」という掌編が第1回かぐやSFコンテストの審査員特別賞を受賞した。著者いわく、「十数年ぶりに書いた」「再び書くことの楽しさを思い出させてくれた」作品であったらしい。この受賞を皮切りに、著者の坂崎かおるは年二回くらいのペースで新人賞やコンテストで結果を出し、現在はエンタメ誌から文芸誌、アンソロジーとさまざまな媒体に登場し、ほとんど文字通り三面六臂(さんめんろっぴ)の活躍を見せている。その待望の第一作品集が、本書『嘘つき姫』となる。

 掌編から短編、そして中編くらいのものと、九作が収められている。内容は幅広く、傾向としてはSFや奇想小説寄りといったところだろうか。幅広いが、同時に不思議な統一感もある。たとえば登場人物の多くが、共同体から弾(はじ)き出されがちな存在であること。あるいは、そこはかとない不穏さや残酷さ。安易な解釈を拒むオープンエンディング。そしてそれらをコーティングする、丁寧に磨かれた、海外文学を彷彿(ほうふつ)とさせる清冽(せいれつ)な文章。

 いくつか収録作を紹介すると、冒頭の「ニューヨークの魔女」は、死ねない魔女を電気椅子で「処刑」する十九世紀アメリカのショーのお話。「リモート」は事故で体が動かなくなり、「ロボット」を通して学校に通っているという「同級生」が登場する。ほか、「私のつまと、私のはは」は、パートナー同士である女性二人が拡張現実技術を用いた架空の赤ん坊を育てることになり、それを機に関係性が崩れはじめていく迫力の一編。「電信柱より」では、電信柱との恋に落ちる女性が描かれる。

 評者のお気に入りは表題作の「嘘つき姫」だ。ドイツ占領下のフランスを舞台としたシスターフッドの話であり、さまざまな嘘の話でもある。考察をはじめると止まらなくなるので、読書会向きでもあるはず。ぜひ、友人知人と「嘘つき姫」の話をしてみてもらいたい。(河出書房新社、1870円)

読売新聞
2024年5月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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