<書評>『高橋是清 尽人事而後楽天』鈴木俊夫 著

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高橋是清

『高橋是清』

著者
鈴木 俊夫 [著]
出版社
ミネルヴァ書房
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784623096718
発売日
2024/05/08
価格
3,850円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『高橋是清 尽人事而後楽天』鈴木俊夫 著

◆幅広い海外人脈が勘所に

 戦前の財政金融史に興味のある人ならその名を知らない人はいない高橋是清。日本銀行や大蔵省を舞台に、日露戦争の戦費調達に奔走し、昭和恐慌下の経済の舵(かじ)取りに尽力するなど、経済全体に影響が及ぶ大仕事の数々が頭に浮かぶが、その人生は決して順風満帆ではなかったようだ。

 本書は「ファクト・ファインディングを行うことで是清の新しい側面を描き出す」ため、新資料を駆使して、生い立ちから留学中の辛酸、米相場での失敗まで、人間・高橋是清の生々しい姿を描くという。

 二・二六事件で惨殺されるまで、文字通り波瀾(はらん)万丈だった是清の、81年の生涯。幕末の少年時代に米国に渡り、帰国後、官立学校などで英語を教え、やがて文部省や農商務省の官吏となり、さらに政治家、蔵相を経て一時は首相にもなった。その人生は様々(さまざま)な人々との邂逅(かいこう)に彩られていたようだ。

 著者が「人脈」と表現する中には、留学仲間の日本人の他に、多数の外国人がいた。彼らは是清の教師であり、交渉相手であり、そして親友だった。宣教師フルベッキ、ヘボン式ローマ字で有名なヘボン、お雇い外国人として知られた理科教師グリフィスなどとも知己を得ている。

 著者はこうした人間関係が成立した理由の一つとして、是清の「腹蔵のない無邪気で天真爛漫(らんまん)な性格」を挙げる。後に外債募集で力添えを得た銀行家のカッセル、ニューヨークの銀行家で米国ユダヤ人協会会長でもあったシフ、この2人との付き合いにも及ぶ。ロンドンでの外債引き受けに加え、ニューヨークでの引き受けが実現したのは、2人のユダヤ人同士の強い絆があったからだという。

 著者は「日露戦争時にロシアが行ったユダヤ人に対する迫害が、日本政府の外債発行を米国で引き受けようとするシフの最終的な判断を促したことは確か」と断言。是清にとって、この2人の銀行家との親しい関係は、まさしく“勘所”だったことになる。

(ミネルヴァ書房・3850円)

1948年生まれ。東北大学名誉教授。『金融恐慌とイギリス銀行業』など。

◆もう一冊

『高橋是清自伝』(上)(下)高橋是清著、上塚司編(中公文庫)

中日新聞 東京新聞
2024年6月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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