“馬目線”を描き19世紀の英国で大ヒット!馬の待遇を改善させた「黒馬物語」など動物文学の名作

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  • 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯 ある小さなスズメの記録

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身勝手な人間に翻弄されたり心温かく信頼関係を築けたり動物と人間の絆を描く名作

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 動物文学の名作アンナ・シューウェル『黒馬物語』(三辺律子訳)の新訳が刊行された。子供の頃親しんだ読者も多いと思うが、大人になって読み返すと多くの示唆が含まれていることに改めて感じ入るのでは。

「ある馬の自伝」として馬の視点から語られていく本作。十九世紀、イギリスの牧場で生まれた黒馬のブラックビューティは母馬や親切な人間に囲まれ、乗馬や馬車用の馬として重用されていく。だが当主一家が屋敷を手放すこととなり、彼は伯爵家に引き取られる。その後居場所を転々しながら、時に理不尽な酷使を強いられていく。

 ハミを咥えることや、止め手綱で頭を高く上げさせられることの不便さなどが馬の視点から生々しく描かれるが、良き理解者の人間もいることにほっとする。

 訳者の解説によると著者は「目指していたのは、馬に対するやさしさ、同情心、理解ある扱いを促すこと」と言っていたそうで、実際本作の刊行後、馬の扱いへの関心が高まり、止め手綱が禁止になったという。

 身勝手な人間に翻弄される動物を描いた小説といえばジャック・ロンドン『野性の呼び声』(大石真訳、新潮文庫)もそうだ。セント・バーナードの父とシェパードの母を持つバックは判事邸で満ちたりた生活を送っていたが、賭博好きの園丁に売り飛ばされ、アラスカの雪原で橇犬として労働を強いられるように。数々の危機にさらされるなか、バックの中で野性が目を覚ましていく――。いわずと知れた不朽の名作だ。

 一方、動物が人間と信頼関係を築く姿に心温かくなるのはクレア・キップス『ある小さなスズメの記録』(梨木香歩訳、文春文庫)だ。第二次大戦下のロンドンで、ピアニストの老婦人がスズメの子を拾う。身体に不具合があり野生では生き延びられそうにないそのスズメは、長きにわたり婦人と暮らしていく。彼らの日々を記録したのが本書である。婦人に懐き、身体は不自由ながらもトランプやマッチで芸を披露する姿がなんとも愛らしい。淡々とした筆致の中に、スズメへの愛情が滲み出ている。

新潮社 週刊新潮
2024年6月13日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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