恐竜化石ハンターばかりじゃない

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古生物学者と40億年

『古生物学者と40億年』

著者
泉 賢太郎 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784480684806
発売日
2024/04/10
価格
990円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

恐竜化石ハンターばかりじゃない

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 古生物学者とは、何をしている人だろう。多くの人は、恐竜の化石を発掘する姿を思い浮かべるのではないか。たしかに恐竜は古生物界の花形ではあるが、古生物学者イコール恐竜化石ハンターというわけではない。「研究」とは、具体的にどんなことをしているのか。泉賢太郎『古生物学者と40億年』は、その細部の描き方がすばらしい。

 化石の発掘は研究のスタートラインである。しかし、特殊な場合を除いて骨などの硬い組織しか残っていないし、骨格が完全に揃った状態で発掘できたとしても、その動物の生理学的特徴や行動学的特徴は、骨には刻まれていない。また、その時代に存在したすべての生物のうち、化石として残るものはごくごくわずかな割合だ。消えてしまった情報が大半なのである。地層の年代を特定することも、その層がどのような環境で形成されたのかを知ることも、そんなに簡単ではない。この本を読んでいると、巨大なブラックボックスに立ち向かう地味な作業こそが「やりがい」や「ときめき」の要素であることがよくわかる。

 なによりも「こんなに大事なことなのにまだ何も解明されていない」ことがらに言及するときのキラキラ感に惹かれた。謎解きに挑む人生はすてきだ。たとえば、二枚貝の化石を「読む」ために、現在生きている二枚貝を観察すること。それは、脳内で時空をとびこえる体験と言ってもよいのではないか。スケールの大きな生き方だと思う。

新潮社 週刊新潮
2024年6月13日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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