『日本の物流問題 流通の危機と進化を読みとく』野口智雄著

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日本の物流問題

『日本の物流問題』

著者
野口 智雄 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
産業/交通・通信
ISBN
9784480076069
発売日
2024/03/07
価格
1,034円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『日本の物流問題 流通の危機と進化を読みとく』野口智雄著

[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)

転機の業界 改革促す

 日本の物流に異変が起きている。

 世界でも有数の物流の利便性を支えてきたのは関連企業の努力と、これに携わるワーカー、特にドライバーの上限がない長時間労働であった。過労による事故の防止のため、働き方改革がこの業界にも必須とされ、労働時間の上限設定が今年度から始まった。このことが物流に大きな影響をもたらしている。物流業界は大きな変化への対応に追われているが、特に運送業は中小零細企業が多く、また荷主の立場が強いだけに対応に苦慮しているのが実情である。長時間労働を減らすための対応に追われる一方、ドライバーの収入が減り、離職者が増えるなどの悩ましい問題も生じている。人員確保のための人件費、採用経費や燃料費の負担増を運賃の値上げでカバーしようとしても容易ではなく、新規の従業員の応募も少ない。この状態が続けば運送業者の倒産続出の危険性もあると本書は警告する。そうなれば運賃の高騰や遅配の恒常化など消費者に負担や不便を強いる事態が十分にあり得るともいう。業界はCO2削減という課題も抱え、まさに大きな転換点に直面している。

 では業界はどう変化すれば良いのか。消費者の負担増や利便性の低下を出来るだけ抑制しながら厳しい環境に対応するための方策も本書は示す。女性やギグワーカーの活用による人員確保策は必至である。荷捌(さば)き時間の短縮を図る什器(じゅうき)の共通化、中継輸送や船舶、鉄道の利用はもう始まっている。ロボットやドローンの活用、自動運転の実用化、荷物の受取の合理化などの省人化に加え、それらを支えるAIの活用やDX化などの効率化も重要だ。解決すべき課題も多く、当局による制度整備や業界、企業の協業などの努力が必須である。対策がうまくいけば物流業は生産と消費をつなぐインフラとしての使命を果たしつつ従業員満足度が高い産業として新たな発展を遂げるだろう。本書は物流の厳しい現状を見据えた上で、未来への改革を促す労作。(ちくま新書、1034円)

読売新聞
2024年6月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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