『日本の国連外交』
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『日本の国連外交 戦前から現代まで』潘亮著
[レビュアー] 遠藤乾(国際政治学者・東京大教授)
「国連中心主義」の内実
国連中心主義という理念は、西側との協調、アジアの一員とともに、長らく戦後日本外交の軸だった。けれど、実のところ日本が国連をどう見てきたのか、そこで何を目指し、どんな外交を展開してきたのか、実態はよく分からない。この本は、戦前の国際連盟期から冷戦終結期までを歴史的に俯瞰(ふかん)し、その課題に取り組む。
連盟を脱退し、一度は普遍的国際組織に背を向けた日本だが、脱退直後から大東亜共栄圏と他地域をどう結ぶのか考えていた。日本が一敗地にまみれるなか誕生した国連は、戦勝国支配の装置であり、警戒に値する。しかし、独立を回復した日本はその組織を目指す。なぜか。
それは、一時外交を失った弱小日本が、主権平等の原則の下、国際政治を取り戻す場だったのだ。実際、そこで日本外交は、次々に国連に持ち込まれる案件に関わり、信頼を取り戻す。
しかし、それは危うい。東西冷戦が激化すれば、米国の意向に引きずられる。なにせ西側協調第一なのだ。そうでなくても、多国間の場に紛争が持ち込まれると、あっという間に日本は板挟みになる。当事国どちらにも良い顔をしたいが、西側もアジア友邦も経済利権も大事だ。
この本は、日本外交が国連を通じて関わった紛争を逐一取り上げ、その危うい実態を明らかにする。当初から日本は、原則賛成、各論留保で、対立を避けつつ受動的に応じがちだった。が、徐々に経済力が増し、経験を積むなか、カンボジアやアフガニスタンなどの紛争地で、国際情勢や国民世論が許し、指導者が動くとき、国や社会の再建に貢献もしてきた。国連という場の存在意義が危機にさらされると、ときに米国の意向に反して、日本は体を張ってきた。
加えて、国連外交の舞台裏である組織、資金、ルールなどの面で、日本外交は工夫と忍耐を重ね、得点を挙げてきた。
800頁(ページ)に及ぶ外交物語は冷戦終結で終わる。大著の続きが早くも読みたい。(名古屋大学出版会、9900円)