『東洋医学はなぜ効くのか ツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム』
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『東洋医学はなぜ効くのか ツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム』山本高穂/大野智著
[レビュアー] 為末大(Deportare Partners代表/元陸上選手)
鍼治療の疑問に答える
鍼(はり)治療を行ったことがあるオリンピアンは多い。私もそうだ。身体に最も敏感な職業の一つであるオリンピアンが行うのだから、何か根拠があるのだろうと思われるが、おそらくほとんどの選手は「なんとなく効くから」と言うだろう。なぜ効くのかは選手たちも理解していなかった。
本当に鍼は効くのか。ツボとはなんなのか。東洋医学はただのプラセボ効果ではないのか。本書はそうした漠然とした疑問に答えている。
例えば、身体に物理的な刺激を加えるとそれは大脳に伝わり、痛みや心地よさになる。しかし、本書によればそれだけではなく、鍼でツボに刺激を加えると、大脳に到達する前に脊髄や脳幹から交感神経や副交感神経に伝わり、それが内臓の活動に影響を与えるそうだ。科学的な検証手法がなく、患者や医師の主観的な評価しかない時代に、このような手法が開発されたと考えると、驚くばかりだ。
本書を読んで思い出したのは、西洋、東洋のコーチングの違いだ。膝の違和感を訴えた際、米国人コーチは膝の問題を指摘し、日本人コーチは腕振りの問題を指摘した。走る際に左右の肩が大きく前後に動くと、それにつられて対角線にある腰も前後する。すると着地している足と腰との間にもねじれが生じ、それを膝が吸収する。だから腕振りの改善を伝えたのだ。
一方で、日本では競技中に長い距離を走る必要がない野球で「走り込み」のようなトレーニングがある。米国では対照群の比較実験により検証され、必要がないとしてすでに行われていない。
西洋的手法は全体を見失いがちだし、東洋的手法は非科学的な迷信に陥りがちだ。西洋は部分に分けることで、測れるようにし、科学を発展させた。一方、東洋は、全体は分けることができないと、全体を全体のまま扱おうとした。
本書は全体を中庸に維持させようとしてきた東洋医学を西洋科学の手法で分析し、その効果が認められつつあることに言及している。(講談社ブルーバックス、1210円)