『犬にウケる最新知識』
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【毎日書評】「犬は怒られてもぜんぜん反省していない」は嘘?本当?
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
犬はもっとも古くから人と生活を共にしてきた動物です。
しかし、身近な存在であるがゆえ行動や認知に関する研究はあまり行われず、それぞれの主観や価値観でその習性は語られてきました。(「はじめに」より)
ドッグトレーナーとして活動する著者による『犬にウケる最新知識』(鹿野正顕 著、ワニブックスPLUS新書)の冒頭にはこう書かれています。
研究が行われてこなかったことについては、もしかしたらなんらかの事情が絡んでいるのかもしれません。しかしそうはいっても、主観や価値観に左右されてきたという事実にはビックリ。そもそも、さまざまな研究が急速に進み始めたのは2000年代に入ってからだというのです。
しかしその結果、かつて信じられていた“科学的根拠のなかった常識”が覆されるようになったのだとか。そして当然、それまでの犬との関わり方やしつけ方は大きく見なおされるようになったのだといいます。
そのため最近では、科学的根拠に基づいた新しい情報に触れる機会も増えてきたそう。しかし、それ以前の状況を念頭に置けば、新たな情報が多くの飼い主にきちんと浸透しているとはいいがたくもあるようです。
そこで本書において著者は、前著『犬にウケる飼い方』(ワニブックスPLUS新書)の内容をさらに深め、飼い主が愛犬と交わるうえで知っておくべき「犬の行動や特性、認知に関する最新の情報」だけを科学的な研究結果を交えながら紹介しているわけです。
当然ながらそれらは、犬のプロの目で厳選された知られざる最新情報ばかり。とはいえ難しい内容ではなく、100種の情報が1見開きで1項目ずつ紹介されているので、楽しみながら、そして共感しつつ読み進めることができるはずです。
では、知られざる最新情報とはどのようなものなのでしょうか? きょうは第1章「衝撃の『犬』真実」のなかから、2つのトピックスをピックアップしてみたいと思います。
犬は怒られても反省しない
犬が悪さをしたときに叱ると、目を逸らしたり、うつむいて上目遣いをしたり、伏せてじっとしたりといった仕草を見せることがあります。いかにも反省していそうに見えますが、犬は本当に罪の意識を持ったり、反省したりできるのでしょうか?
この点に関し、興味深いトピックが紹介されています。動物の認知行動学の研究者であるアレクサンドラ・ホロヴィッツが、犬が反省しているように見える仕草について、次のような実験をしたというのです。
「飼い主と犬、数グループをおやつが用意された別々の部屋にそれぞれ待機させる→おやつを食べないように犬に指示し、飼い主が部屋の外へ→実験者は飼い主が部屋に戻った際に犬がおやつを食べていたら叱るように指示(犬がおやつを食べなかった場合は実験者がこっそり隠す)」(16ページより)
もしも犬が叱られて反省するなら、冤罪をこうむった犬は“反省の仕草”を見せないはず。ところが結果的にはどちらの場合でも“反省の仕草”を見せたというのです。そののちも同様のテーマについてさまざまな研究が行われたようですが、いずれの場合も同じような結果が得られたそう。
そのため現在では、「犬の反省しているように見える仕草」は、(飼い主が叱ったことに対して犬が)恐怖や不安を表す反応と結論づけられているのだといいます。
人も犬も、善悪の判断をする能力については脳の前頭葉が担っています。人は前頭葉が非常に発達していて、大脳皮質のおよそ30%も占めていますが、犬の場合は7%と非常に少ないため、犬に道徳心や倫理観、善悪の判断を求めるのは非常に困難といえます。(17ページより)
つまり犬を叱りつけることは、単に飼い主への恐怖心を抱かせるだけにすぎないということ。だとすれば、互いの関係が悪化する可能性も否定できません。
だからこそ大切なのは、「してほしくないこと」が起きないような環境設定や対応を心がけ、「してほしいこと」をほめてしつけること。それが信頼関係の構築につながっていくわけです。(16ページより)
犬は人のがんを早期発見することができる
警察犬、救助犬、麻薬探知犬などは、人間の最新技術でも太刀打ちできない優秀な嗅覚を発揮して、私たちに多くの恩恵を与えてくれています。それどころか近年の研究では、犬が人の病気を早期発見してくれる能力を持っていることもわかってきたのだそうです。
とくに注目されているのは、人間の呼気(吐いた息)や尿の匂いから早期のがんを発見するように訓練された「がん探知犬」。
2004年にイギリスで行われた研究では、一般の家庭犬に膀胱がん患者の尿の匂いを嗅ぎ分けるように訓練し、7検体のうち一つのみが膀胱がん患者の尿という条件で、嗅ぎ分けの実験を行いました。
犬に嗅ぎ分けの能力がなければ、患者の尿を選ぶ確率は統計学上7分の1(14%)になるはずですが、結果は計54回中22回の成功(確率41%)と高い成功率でした。
また、2006年にアメリカで行われた研究では、一般の家庭犬に肺がんと乳がんの患者の呼気と健康な人の呼気を区別する訓練を行い、肺がん患者55人、乳がん患者31人、健康な人83人を対象に嗅ぎ分けの実験をしました。(34〜35ページより)
その結果、肺がんについては感度(病気の人を検出する能力)、特異性(健康な人を検出する能力)ともに99%、乳がんは感度88%、特異性98%と、非常に高い精度を示したのだといいます。これは驚くべき結果だといえるのではないでしょうか?
しかも、そればかりではなく、2015年にイタリアで行われた研究においても見逃せない結果が出たようです。2頭の犬で前立腺がん患者の尿の嗅ぎ分けの実験を行ったところ、1頭の犬は感度100%、特異性98.7%、もう1頭の犬が感度98.6&、特異性97.6%と、こちらも非常に高い嗅ぎ分け能力を絞めず結果になったというのです。
これらの結果のみならず、犬がさまざまながんを嗅ぎ分けられるという研究結果は続々と報告されているようです。
そのため現在では、「犬が、がんを嗅ぎ分ける仕組み」そのものについても研究が進められているそう。普通に犬と遊んでいるだけでは想像もつかないような話ですが、犬の持つ嗅覚によって特定の物質の存在が明らかになれば、がん治療が大きく前進することになるかもしれません。(34ページより)
愛犬とのよりよい関係を築くためにもっとも重要なのは、犬のことを正しく理解すること。しかし本書をいちど読んでおくだけで、接し方や生活環境が改善され、お互いの幸福度が高まるはずだと著者は太鼓判を押しています。愛犬とともにより幸せになるために、手にとってみてはいかがでしょうか?
Source: ワニブックスPLUS新書