『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』
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【毎日書評】たくさんのアイデアを生み出す天才に近づける普遍的な「知的インプット習慣」
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』(菅付雅信 著、ダイヤモンド社)の著者には、長年クリエイティヴ教育に関わってきた人間だからこそ感じる疑問があるのだそうです。
それは、クリエイティヴ教育が「いかにアウトプット(=表現)するか」を教えるものであると思われていること。もちろん「いかにアウトプットするか」は重要な課題ですが、とはいえその方法は人それぞれ。載せるメディアや環境によっても異なり、時代とともに激しく変化するものでもあります。
そのような理由から、10年、20年、さらには一生有効であろうとするクリエイティヴ教育の普遍的なメソッドは「知的インプットのやり方を添えることだと考えている」というのです。なぜなら、アウトプットの質と量は、インプットの質と量が決めるものだから。
つまり、優れたクリエイターのアウトプットの質と量は、その人のインプットの質と量に負っている。普段の、そしてそれまでの知的インプットの質と量が低いのに、優れたアウトプットの質と量を長年キープしている人というのに、私は今まで出会ったことがない。(「はじめに」より)
「クリエイティヴであり続ける生き方」を保つことが重要であるため、インプットの多様性と総量が意味を持つということ。必ずしもすぐに役立つノウハウではないにしても、廃れることのないエッセンシャル(本質的)な考え方をインプットすることが大切だということです。
そのため本書は、「エッセンシャルな、普遍性と汎用性のあるクリエイティヴ教育のメソッド」としてまとめられているわけです。
ところで著者はここで、「天才はアイデアを生み出す『仕組み』を持っている」と述べています。はたして、それはどのようなものなのでしょうか?
新しいアイデアは、「A×B/C」によって生まれる。
数々のクリエイターに影響を与えた『アイデアのつくり方』(1940年刊)は、アメリカの広告代理店のプランナーとして長く活躍したジェームス・W・ヤングによる「アイデアを生み出すための指南書」。彼はそこで、アイデアを次のように定義しています。
「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」
つまり「アイデアのつくり方」を端的に言葉にすると、以下のようになる。
新しいアイデア=既存のアイデア×既存のアイデア。(22ページより)
つまりアイデアというものは、なにもないところから突然、魔法のように生まれてくるものではないのです。ヤングによれば「フォードの車が製造される方法とまったく同じ明確な方法」であり、つまりは既存のアイデア(要素)のかけ算によって生まれるものだということ。
クリエイティヴに関わる方には有名な公式ですが、とはいえ当然ながら、この式を知ったからすぐに新たなアイデアが生まれてくるわけではありません。かけ算を成り立たせるための大前提として、「既存の要素・アイデア」を数多く知っておかなければならないのです。
なぜなら、頭のなかに膨大な過去のデータが入っていてこそ、その新しい組み合わせも生まれてくるものだから。
そう考えると、ヤングの公式にはいちばん重要な部分が抜け落ちていると著者は指摘しています。より正確に表現するなら、アイデアのつくり方とは既存のアイデア×既存のアイデアではなく、
既存のアイデア×既存のアイデア×大量のインプット(24ページより)
だということ。いいかえればアイデアは、「A×B/C」によって生まれるわけです。(22ページより)
天才は「ひらめき」に頼らない。アイデアを生み出す「仕組み」を持っている。
この分母Cこそが、本書のテーマ「インプット・ルーティン」だ。
編集者という職業柄、これまで数多くの才能たちと出会ってきたが、クリエイティヴな人々の多くが、独自のインプットの習慣=ルーティンを持っていた。新しいアイデアを常に生み出すために、分母であるCの部分、すなわち大量のインプットを習慣として仕組み化しているのだ。(24〜25ページより)
そう確信するからこそ著者は、アーティストや作家、写真家、ライター、グラフィックデザイナーなどさまざまな仕事をする人たちと仕事をするたびに、「どうやって、アイデアを/イメージを思いつきますか?」と尋ねてきたのだそうです。それはいうまでもなく、クリエイティヴのプロとして活躍し続けるための秘訣を知りたいから。
彼らの回答の多くは次のようなものであった。
「アイデアは思いつくものではない。出るものだ」と。
さらには、こう語る者もいた。
「すばらしいアイデアやイメージが急に降りてくる、または爆発的にひらめくということを期待しないほうがいい」と。(25ページより)
そうしたことばのなかから著者が学んだのは、トップのクリエイターほど「アイデアやイメージが確実に生まれてくる日常的な仕組み」を持っているということだったそう。
私がこれまで仕事をしてきた「天才」と称されるクリエイターたちは、たとえば音楽家の坂本龍一氏にしろ、写真家の篠山紀信氏にしろ、どんな課題に対しても「ほぼ即答に近いかたち」でアイデアを出すことができるのを私は仕事の現場で目の当たりにしてきた。彼らは日々膨大にインプットし、膨大なアイデアの掛け算を頭の中で試しているからこそ、そんな芸当も可能になるのだ。(26ページより)
つまり天才と呼ばれていたとしても、彼らは決して自分の才能を過信しないということ。それどころか、そもそも自分の内部からとめdなくアイデアやイメージが湧き出てくるとは思っていないといいます。
彼らは、ネタのストックの量と、ネタの組み合わせの試行錯誤数が違うから、一般人とは異なって見えるのです。たとえば、「このパターンは、あれと組み合わせるとおもしろくなりそう」「この切り口は、なにかに使えそうだ」「このネタは使いたいけど、いまじゃないかな」というようなことを、つねに考えているわけです。
だからこそ、優れたアウトプットが必要となったときに頼るべきは、偶発的なひらめきではなく、アイデアを生み出し続ける仕組みと、それを支える日常的な基盤。著者はそう述べていますが、充分に納得できる考え方ではないでしょうか。(24ページより)
他にも読書、写真・映画・アート、音楽、食べ方など、さまざまな角度からインプットの方法を明らかにした興味深い内容。その根底に根ざす広い視野は、クリエイターだけでなく、すべてのビジネスパーソンに刺激を与えてくれることでしょう。
Source: ダイヤモンド社