『古本食堂 新装開店』
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原田ひ香の世界
[文] 角川春樹事務所
東京・神保町の古書店を舞台にした『古本食堂』。本が紡ぐ優しい人間ドラマと彩りを添える美味しい料理が読む者を惹きつける本シリーズの第二弾『古本食堂 新装開店』が刊行された。
本作の刊行を記念して著者の原田ひ香さんと角川春樹が対談。本を巡って互いの思いが語られる中、二人の意外な接点をきっかけに話はさらなる広がりを見せる。まるで、本が持つ奥深い魅力に気づかされるこの小説の世界を再現したかのように――。
◆埋もれている名著を再発見する意義とは?
――独自の視点、切り口で話題作を次々と発表されている原田さんですが、角川社長はこの「古本食堂」シリーズをどのように読まれているのでしょうか。
角川春樹(以下、角川) 原田さんはすごく意味があることをされていると思います。前作に続きこの『古本食堂 新装開店』でも埋もれていた本を取り上げているが、これは本当に素晴らしいことなんです。
原田ひ香(以下、原田) ありがとうございます。
角川 そんな原田さんにぜひとも紹介したい本がある。『戦場の希望の図書館』(東京創元社)といって、シリア内戦下のダラヤという町での出来事を描いたノンフィクションです。この町は政府軍の攻撃が激しく、多くの人が逃げ出しますが、わずかに残った人たちが瓦礫の中から本を一冊一冊拾い集めていく。そして図書館を作ったんですね、地下に。秘密の図書館ともいえるこの場所で本を手にしたのは、町の人だけでなく、反政府の兵士もいた。
原田 戦後の日本でも、多くの人が本を欲したという話は聞いたことがあります。
角川 本すら奪ってしまうんですよ、戦争は。そのダラヤの人々というのは、読書家でもなんでもない人たちだけど、本を、紙の本を読むことで正常な精神を取り戻していく。諦めていたはずの、生きる意味を考えるようになるんです。すごく大事なことが書かれていますよ、ここには。
原田 読ませていただきます。
角川 でもこの本、あまり知られていない。私が発掘したようなものだ(笑)。原田さんがされていることも同じですよ。今作には第一章で森瑤子の『イヤリング』が出てきます。森さんとは親しい付き合いがありましたが、彼女が亡くなって三十年近いこともあって、私の中から森瑤子という存在が消えていた。でも、この作品を読んで生き返った。
原田 そうおっしゃっていただけると嬉しいです。取り上げているのは絶版と言われる本が多いんですね。今は品切れという言葉を使いますが、いずれにしろ、なかなか手に入らない。もったいないなぁと思うんです、面白いのにって。ちょっとでも興味を持ってもらえるきっかけになればと思っています。
角川 それが新鮮なんですよ、もう手に入らなくなってしまった本というのが。ところが、驚いたことにこの『イヤリング』を再販したいと編集者が言ってきた(『指輪』に改題し、ハルキ文庫で発売中)。
原田 前作で小林カツ代さんの本を取り上げた際も角川春樹事務所さんが再販してくださり、評判を集めたとお聞きしています。他社さんの話になりますが、有吉佐和子さんの『青い壺』という小説の帯を書かせていただいたんですね。文庫になってから随分経つんですが、こちらも販売部数が伸びたそうで。社長の言葉を借りるなら、“古い本を発掘する人”みたいになれたらいいなあ、と(笑)。
角川 『古本食堂』をご自身でも体現されているわけだ(笑)。