世界一の美食家が大切にしている「美食」を楽しむための心得

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

美食の教養

『美食の教養』

著者
浜田 岳文 [著]
出版社
ダイヤモンド社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784478119792
発売日
2024/06/27
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【毎日書評】世界一の美食家が大切にしている「美食」を楽しむための心得

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

食材に強い関心を抱いているとか、友人や家族など、誰かと食べることに価値を置いているとか、あるいは自分でつくって食べることが好きだとか――。“食”へのこだわり方は人それぞれです。

美食の教養 世界一の美食家が知っていること』(浜田岳文 著、ダイヤモンド社)の著者の場合は、食のなかでもとくに外食に興味を持っているのだとか。そして、食を通して料理人というクリエイターの作品を鑑賞し、享受することを目的にしているのだそうです。

そんな考え方や経験に基づく本書は、より深く豊かに食を楽しむための案内。ただし、「美食=贅沢なもの」という意味ではなさそう。著者が伝えたいことを正確に表現するなら、「ガストロノミー(Gastronomy)=食と文化の関係を考察すること」に行き着くようなのです。

美味しいものを食べるという喜びがあることは、人生を豊かにする。しかし、だからといって、ただ単に美味しいと評判の店に行けばいいということにはならない。

美味しさがゴールではなく、どう美味しくしているのか、なぜその地で食べるのか、どんな歴史的な背景があるのか、どんなストーリーがつむがれているのか……。

そういうものをちゃんと含めて楽しむことが、文化的に食べるということだと思うのです。そしてそれこそが、「ガストロノミー=美食」が重要な理由になるのだと思います。(「はじめに」より)

もちろん食に限らず、文化的価値の評価は簡単ではなく、それを定量的にはかることはできません。ましてや絶対的な基準も存在しないけれど、少なくともその時代とコミュニティにおける価値観は漠然と共有されています。

時と場所が変われば価値基準は異なってきますし、共有されている価値観に違和感を覚える人がいても当然。しかし、だからといって相対主義に陥り、文化的価値の評価を放棄すべきではないと著者は強調するのです。

とはいえ、美食に関する概念は実際のところ難しそうでもあります。そこできょうは第2章「美味しさに出会う 美食入門」のなかから、「心得」の部分に焦点を当ててみたいと思います。

まずはリラックスして楽しむ

行き慣れていない何万円もするようなお店に行くとなると、緊張してしまっても無理はありません。しかし、なにより大切なことは“食事を楽しむ”ことだと著者は述べています。料理はもちろんのこと、レストランの雰囲気、内装、スタッフとのコミュニケーションなど、すべてを楽しみに行くという心持ちこそがまずは重要なのだと。

たしかにあまり緊張しすぎてしまったら、お店を楽しめないどころか味もわからなくなってしまうかもしれません。しかし、それではもったいない。どんな楽しい時間を過ごせるかな、どんな素晴らしい料理と出会えるかな、とワクワクしながら足を運ぶ。そして、おいしいと感じたら、どうしておいしいのかを考えてみる。いろいろ想像してみる。

そういう、ひとつひとつのことに大きな意味があるということです。

もし、何かわからないことがあったら、素材のことでも、調理方法のことでも、ワインのことでも、お店の人に聞けばいいと思います。

フランスの料理の高級店など、ハードルが高いと思っている人がいますが、知らないことを聞かれて怪訝な顔をしたり、嫌がったりするサービスパーソンはまずいません。逆に、知ったかぶりはすぐばれてしまうので、正直でいることが一番です。(82〜83ページより)

そう主張する著者は、もしも自分がサービススタッフだったら、初心者の相手ほどチャンスだと感じるだろうと思っているそうです。

なぜなら、気に入ってお店のファンになってもらえたら、新しい常連になってくれる可能性があるから。それがたとえ年に一度の記念日だけだったとしても、充分ありがたいというのです。

良い食べ手が増えるのは、レストラン業界全体にとっても良いことです。そして、良い食べ手を作るのは、レストランの責務ともいっていい。

だから、健全な好奇心を持って食を楽しもうとしている初心者を邪険に扱うようなレストランがあるとすれば、そんなお店には行く価値がありません。(83〜83ページより)

先述のとおり、高級店だったり行き慣れない店だったりすると、どうしても緊張してしまい、ハードルを高く感じてしまうものです。

けれど、少なくとも及び腰になる必要はないのだから、まずはリラックスして楽しむことが大切だということです。(82ページより)

いジャンルのトップに行ってみる

「一回の食事に数万円もお金を出すのはちょっと難しい」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし当然のことながら、高価なものでなければおいしくないというわけではありません。

たとえばカレー、ハンバーガー、ラーメン、うどん、そばなどは、高級食材を使った特殊なものでもなければ、高くても5千円を超えることは少ないはず。そんなに高くなくたって、おいしいものはあるということ。近年は価格が上昇傾向にあるとはいえ、それらのジャンルにおいては日本最高峰のものが5千円以内で食べられるのです。

むしろ著者は、高級ジャンルのなかで安い店に行くくらいなら、安いジャンルで高級な店に行ったほうがいいと考えているそうです。なぜなら、そのジャンルにおける最高峰を知らないと、そのジャンルを知ったとはいえないから。そのジャンルで“まあまあなところ”に行っているだけでは、たいした経験にはならないということです。

誤解を避けるために強調すると、高級ジャンルで安い店の中にも、素晴らしいお店はあります。原価が高い食材を使わず、安い食材を生かして技術で美味しくしている店です。そういうお店は、わざわざ行く価値のある店です。

ただ、高級ジャンルの安い店で多いのが、名ばかりの高級食材を使っているパターンです。どういうことかというと、質の悪いキャビア、フォアグラ、トリュフ、ウニ、鮑、和牛などで見た目だけ豪華にしているのです。

これでは、高級店の劣化版、擬似体験でしかありません。行っても経験にならない安い店というのは、こういう店を指しています。(87ページより)

そこで、まずは安いジャンルから始める。そして経済的に余裕が出てきたら、少しずつ高級なジャンルにシフトしていくことが大切だという考え方。安いジャンルを極めることは、将来に向けたトレーニングになるわけです。

そこに、つくり手のどんな想いや考えが込められているのか。どういう食材が使われているのか。香りや口に入れたときの食感はどうか。温度感はどうか……などなど、高いものであれやすいものであれ、せっかくお金を払っているのだから、料理と向き合いながら考えて食べるべきだということ。

わからない食材があれば、自分なりに調べてみることも重要。つきつめていくことで理解は深まり、視野が広がっていくからです。いいかえれば、一品の料理にはそれほどのポテンシャルがあるということなのでしょう。(86ページより)

思考法や新常識、一流料理人の仕事、未来予測など、美食に関するあれこれをさまざまな角度から考察した一冊。興味深く読み進められるだけに、食に関する視野を大きく広げることができそうです。

Source: ダイヤモンド社

メディアジーン lifehacker
2024年7月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク