『テストステロン』
- 著者
- キャロル・フーベン [著]/坪井 貴司 [訳]
- 出版社
- 化学同人
- ジャンル
- 自然科学/医学・歯学・薬学
- ISBN
- 9784759823455
- 発売日
- 2024/05/27
- 価格
- 3,300円(税込)
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『テストステロン ヒトを分け、支配する物質』キャロル・フーベン著
[レビュアー] 為末大(Deportare Partners代表/元陸上選手)
1988年ソウル五輪陸上男子100メートルで、カール・ルイスの連覇を阻んだのはカナダのベン・ジョンソンだった。しかしジョンソンから筋肉増強剤が検出され、金メダルが剥奪(はくだつ)される。ジョンソンは選手活動を続けたが、93年には男性ホルモンの一種であるテストステロンが基準の10倍検出され、永久追放処分を受ける。
アスリートのパフォーマンスに影響を与え、男女の違いを生み出すテストステロンとは何なのか。本書は科学的なアプローチで詳細に調べている。興味深いのはただテストステロン量が多いだけでは、男性化はしないということだ。受容するアンドロゲン受容体が機能していなければならない。
米国ではジェンダーの議論が大変活発になっている。ジェンダーによる差別の解消は重要な課題だ。だが、それに合わせるように、男女に違いはない、性差は社会・文化的に作られ、だからテストステロンの作用もない――と、科学的な事実を曲げることに、著者は懸念を示している。
スタートの構えをとったジョンソンの肩の筋肉の異様な盛り上がりが今も印象に残っている。坪井貴司訳。(化学同人、3300円)