『文章は「形」から読む ことばの魔術と出会うために』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『文章は「形」から読む ことばの魔術と出会うために』阿部公彦著
[レビュアー] 鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)
人に伝わる文章の学び
のっけから、お堅い文章で失礼します。平成30年告示の「高等学校学習指導要領」国語編からの解説文の引用で、「論理国語」という科目についての説明です。
共通必履修科目により育成された資質・能力を基盤とし、主として「思考力・判断力・表現力等」の創造的・論理的思考の側面の力を育成する科目
この文章を、読む人にやわらかく語りかけ、作り方を簡明に記述する料理本のスタイルで書いたらどうなるのか。
こんにちは。ここでは私たちが新設した論理国語という選択科目の説明をしてみましょう。まず土台となるのは、共通必履修科目のおかげで育まれた資質と能力です。その上で主に育成したいのは「思考力・判断力・表現力等」の創造的・論理的思考(です)。
主旨が同じとはいえ、問答無用とばかりに抽象語が羅列する前者からは権威的なにおいがプンプンしませんか。これに対して、著者が例示した後者は、親しみやすく、続きが聞きたくなる。
本書はこのように、文章は形によって働きかける力がどう変わるかを、豊富な事例から読み解いていく。題材は契約書、行政文書、広告文など身近にあっても、改めてその効能をよくよく考えたことがない文章ばかり。なるほど、こう書けばもっと伝わるのか。こうすればもめないのか。学びの多い日本語読本である。
役所の文書はなぜ箇条書きなのかという分析は説得力があった。例えばあの「むすんで ひらいて」という歌で実践したらどうなるか。
むすびなさい。
ひらきなさい。
試しにやってみたら歌詞がもつ楽しさが消え、権威的になってしまった!
ちなみに「論理国語」に対する言葉に「文学国語」があるが、こちらは形式に縛られず、自由に表現することで文章の形式をつねに更新する。その仕組みを、綿矢りさの芥川賞受賞作『蹴りたい背中』で解読するくだりは論理的にして実に明快。作家が新しい文体を創造する面白さをよく伝えている。(集英社新書、1144円)