『心理学に学ぶ鏡の傾聴』
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【毎日書評】3つのあいづちを使い分ければ「傾聴」はうまくいく
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『心理学に学ぶ鏡の傾聴』(岩松正史 著、翔泳社)の著者は、20年間にわたり「傾聴」を専門にしているという心理カウンセラー。会社員として傾聴教育に携わったのち、2015年に一般社団法人 日本傾聴能力開発協会を立ち上げて独立。現在は代表理事として、認定傾聴サポーターや講師の育成をしているのだそうです。
そうしたバックグラウンドをもとに書かれた本書は、「傾聴に困っている傾聴迷子」の人に読んでもらいたいという思いから書かれたのだとか。傾聴を学んでみたけれど、学べば学ぶほど混乱して困っている人が迷路から抜け出し、楽に聴けるようになるための具体的な方法が明かされているということです。
「傾聴」を辞書で引くと「熱心に聞くこと」と出てきますが、もっと詳しくいえば「相手の立場に立知、共感を示しながら積極的に聴くこと」ということになるでしょう。そんな傾聴には、どのような特徴があるのでしょうか? それは、誰にでも身につけることができるものなのでしょうか?
耳の向け方、聴きとり方、応答の仕方……と、確かに傾聴は日常的な聴き方とは違うので、慣れるまでに大変な部分があります。
でも、ポイントを押さえれば、誰にでもできるようになります。
今から始めれば十分に慣れることができますし、誰でも傾聴上手になります。(「はじめに」より)
つまりは傾聴が難しいのではなく、「傾聴をまだよく知らないから難しく感じるだけ」「傾聴に慣れていないだけ」ということのようです。
そもそも、あなたの中には傾聴できる力がすでに備わっています。
今この段階でそういっても信じられないでしょうが、読み進めれば納得してもらえるはずです。(「はじめに」より)
そんな本書のなかから、きょうは第3章「傾聴がもつ『5つの鏡』」に注目してみたいと思います。
傾聴の基本的なスキル〜3種類のあいづち
著者によれば、あいづちには以下のような3種類があるのだそうです。
まずは傾聴においてもっとも大切な「共感のあいづち」。つまり、共感の姿勢を伝えるためのあいづちです。
×「そうですよね」→同感、同調
〇「(あなたにとっては本当に)そうなんですね」→共感
(91ページより)
2つ目は「踊るあいづち(ペーシング)」。2人で対話するためには、両者のペースが同じになっている必要があります。話し手をよく理解し、同じ声色、声の強さ・高さ、話し方、スピード、雰囲気で、話し手に合わせるようにあいづちをするわけです。
ちなみに「踊る」とは、話し手と聴き手のペースを合わせるということだそう。あいづちで話し手に関わりつつ、深く対話できる関係をつくっていくのです。
3つ目は「間をとるあいづち」。話を聴く際には、話を整理したり話し手との関わりを整えたりする「間」が必要な場合があるもの。そんなときには、「あー(間)、そうなんですね(間)」というように、あいづちでゆったり間をとりながら、落ち着いて応答できる準備を整えるわけです。(91ページより)
感情表現から、傾聴の深さを知る
傾聴においては、話し手の心の状態や、もって生まれた資質が大きく関係するもの。また、悩みがない人や、自分の心に関心がない人に対して深い傾聴を試みても、変化がないことは珍しくないのだといいます。
1 on 1ミーティングで、いくら上司が部下のことを丁寧に傾聴しても、部下が業務内容に何も問題を感じていなければ、表面的なただの雑談で終わってしまうことはよくあります。
そもそも、心とか生き方とか、そんなものに興味がないという人は世の中にたくさんいます。
そういう人が傾聴に求めるものは、話してすっきりしたいカタルシス効果(筆者注:感情を外部に発散することによって、心のなかの緊張や不安が解消される現象を利用したもの)しかありません。
一方、深い傾聴で変わっていくのは、自己探究に関心があったり、日ごろから思うところがあったりして、自分の心や気持ちに関心があるような人たちです。(93〜94ページより)
ちなみに著者は、話すテーマではなく、「話の深さ」と「話し方」にそれが表れるものだと感じているのだそうです。
たとえばラーメンについて語る際、「きのう、たまたま入ったラーメン屋、けっこうおいしかったですよ。醤油豚骨で見た目よりあっさりしていて、餃子セットでお得でした」というような“浅いレベル”で軽快に語る人は、聴き手がいつまで聴き続けたとしても変化は起きないというのです。
しかし「昨日、たまたま入ったラーメン屋、芸術的というか、つくっている人のこだわりというか魂を感じたんですよ(間)。若い店長なのによくあんな繊細なラーメンがつくれるもんだなぁと感心というか、すごいなぁと思って(間)。そうしたら、たかがラーメンなんだけどそのラーメンから「お前は、何でも雑すぎるんじゃないか!」って言われているような気がして(間)。何か自分も丁寧に仕事しなきゃいけないよなぁ、そんな気持ちになったんです(間)」
このように自分の内側に深く触れながら考える人の話し方は、ゆったりとした間や、落ち着いた雰囲気があり、傾聴で変化が起きやすい話し手のタイプです。(94〜95ページより)
そこには、心の深さがあるのだと著者は述べています。
人は自分の内側の深いところに意識を向け、いままでの経験をベースにものを考え、自分のことを語りながら自信を深く理解するもの。この自己理解の流れを、アメリカの哲学者/心理療法研究者であるユージン・T・ジェンドリンは「フォーカシング」と名づけたといいます。
フォーカシングとは、「個人の内面にあっていままでの体験に深く根ざしているが、ことばでは表現しづらいぼんやりとした感覚(フェルトセンス)に焦点を当て、その感覚を言語化することで自己理解を深め、自己の成長と変化をもたらすことを目指す療法」だそうです。(93ページより)
本書を読み終えるころには、心のなかにあったモヤモヤが晴れ、新たな傾聴の世界にたどりつけるはずだと著者は述べています。よりよいコミュニケーション能力を身につけるため、参考にしてみてはいかがでしょうか?
Source: 翔泳社