『右傾化のからくり』
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『右傾化のからくり』伊藤俊行著
[レビュアー] 遠藤乾(国際政治学者・東京大教授)
長年日本政治を観察してきた記者が「右傾化」現象を分析する。
確かに、靖国参拝を強行する清和会の首相たちにその証左を見る人は多い。北朝鮮による拉致が明らかになったのち、日本のナショナリズムはいたく刺激された。
しかし、右傾化言説は誇張されている。保革支持の比率は概(おおむ)ね35対15~20で一定している。若者の自民支持は保守化と同じではない。にもかかわらず、SNSは声の大きい少数の拡声器となる。小選挙区に重点を置く選挙制度は、約3割を占める自民党の岩盤支持層を固めると、6割近くの議席を得られることを意味する。投票率が下がれば、そうした岩盤支持層の比重は増す。岸田政権は、安倍元首相亡き後も、そうした計算から右に比重をかけているにすぎない。実態は、右も中で割れている。
むしろ、本格的な右傾化はこれからかもしれないと警鐘を鳴らす。外国人が増え、排外的な極右が台頭する西洋型に移行する可能性である。
冷静な観察と将来の方向感覚が卓抜な書物だ。お薦めしたい。(中央公論新社、2200円)