『監督が怒ってはいけない大会がやってきた』一般社団法人監督が怒ってはいけない大会著

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監督が怒ってはいけない大会がやってきた

『監督が怒ってはいけない大会がやってきた』

著者
一般社団法人 監督が怒ってはいけない大会(益子直美 北川美陽子 北川新二) [著]/益子直美 [著]
出版社
方丈社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784910818122
発売日
2024/03/05
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『監督が怒ってはいけない大会がやってきた』一般社団法人監督が怒ってはいけない大会著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

益子直美杯 9年の歩み

 益子直美さんといえば、1980年代半ばに春の高校バレーでエースの一人として登場して以来、多くのバレーボールファンの声援を背に日本代表チームでも活躍した名選手である。その益子さんが、二〇一五年一月に開催された「第1回 益子直美カップ 小学生バレーボール大会」で、「せめて、私の名前がついた大会くらいは、子どもたちに『バレーが楽しい!』って思ってもらいたい」から、「監督が怒ってはいけない」というルールを取り入れた。それが現在では一般社団法人にまで成長した「監督が怒ってはいけない大会」の起点だ。その活動の今日までの歩みをまとめたものが本書である。

 益子さんにとってバレーは辛(つら)いものだったという。学生時代に受けた厳しい指導によって心が傷ついていて、第一線の選手として活躍しながらも、「バレーボールが大嫌い」だった。だから自らが運営する側に立ったとき、「子どもたちが怒られながらやっているバレーボール大会は見たくない」と思ったのである。

 監督が怒ってはいけない大会の理念はいたってシンプル。次の三項目だ。

〈1〉参加する子どもたちが最大限に楽しむこと。〈2〉監督(コーチ、保護者)が怒らないこと。〈3〉子どもたちも監督もチャレンジすること。

 子どもたちはプレーに対してチャレンジする。「ミスをしても怒られない大会」だからこそ、思い切ったプレーに挑戦できるのだ。大人たちにとってのチャレンジは、ミスした子どもを怒ったり怒鳴(どな)ったりするのではない、別のアプローチを考えて工夫することだ。そしてもちろん、怒らない大会は叱らない大会ではなく、子どもたちがスポーツマンシップにそぐわぬふるまいをしたときは、きちんと叱って指導する。

 本書が提唱するメソッドは、「人を育てる」全ての局面で新たな視界を開いてくれる。「スポーツは怒られてなんぼ」「仕事は怒られてなんぼ」。それは本当に唯一のやり方ですか、と。(方丈社、1760円)

読売新聞
2024年7月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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