仕事がスムーズに進み、職場環境がよくなる「対人心理学」

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

世界最先端の研究が教える新事実 対人心理学BEST100

『世界最先端の研究が教える新事実 対人心理学BEST100』

著者
内藤 誼人 [著]
出版社
総合法令出版
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784862809544
発売日
2024/07/09
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【毎日書評】仕事がスムーズに進み、職場環境がよくなる「対人心理学」

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

心理学にはさまざまな分野がありますが、対人心理学では、私たちが他の人と一緒にいるときにどのように感じるのか、どのような行動をとるのかを調べる学問です。

集団や社会の中で個人が何を感じ、他の人との関係がどう築かれていくのかを主な研究としています。一般的には社会心理学とも呼ばれています。

つまり、社会(職場や学校など)で生きている私たちにとって対人心理学ほど日常に密接している学問はありません。(「まえがき」より)

世界最先端の研究が教える新事実 対人心理学BEST100』(内藤誼人 著、総合法令出版)の著者は、対人心理学についてこのように説明しています。

私たち人間は、ひとりでは絶対にしないことでも、集団になると平気でやってしまったりするものだとも。いじめが典型的な例ですが、個人では「いい人」であったとしても、集団になると心の状態が変化することがあるわけです。

しかし社会において、人との関わりを避けて通ることはできません。だからこそ、社会を上手に生きていくための学問である対人心理学が重要な意味を持つということ。そこで本書では、数多い研究のなかから著者がおもしろいと感じる100種もの研究を取り上げ、それらをもとに対人心理学を解説しているのです。

よくある対人心理学の本は、教科書的で説明が多く、あまり面白いものではありません。

心理学では、仕事、学校、家族、恋人、結婚、スポーツ、政治、環境、法律、などありとあらゆることを研究の対象にしてしまいます。

本書は、専門知識などは特に必要ないので気軽に読み進めてください。(「まえがき」より)

そんな本書のなかから、きょうは第3章「職場における心理学研究」に焦点を当ててみましょう。

目上の相手に敬意を払うための対人距離

私たちは、心理的に親しい人には無理なく近づいていくことができます。しかし相手が目上の人や地位の高い人である場合は、心理的に威圧され、できるだけ離れようとする傾向があるもの。

人と人との間にある物理的な距離のことを、心理学では“対人距離”と呼ぶそうですが、つまり地位が高い人との対人距離は長くなりやすいわけです。

米国ミズーリ大学のラリー・ディーンは、カリフォルニアにある海軍施設で562人の兵士たちのおしゃべり行動を観察してみたことがあります。

仕事絡みのおしゃべりではなく、他愛ないおしゃべりを調べるため、ロビー、カフェテリア、レクリエーション・センターの3ヵ所で観察を行いました。

ディーンは、一人で立っている人に、誰かが近づいていき、声をかけた瞬間を見計らって、お互いがどれくらいの距離を取っているのかを測定させてもらいました。(中略)さらにディーンは、話しかけたほうの階級(地位)と、話しかけられたほうの階級も教えてもらいました。(120〜121ページより)

すると、地位が高い人が低い人のほうに近づくときには、かなり距離が短くなったのだといいます。地位が高い人は遠慮なく、相手のすぐ近くまで踏み込んでいけたわけです。ところが、地位が低い人が高い人に近づいていくときにはかなり離れた場所から声をかけていたのだとか。

私たちは相手と距離を取ることによって、相手に対する敬意を示そうとします。距離を取れば取るほど、敬意の大きさを伝えることができるからです。したがって、もし自分よりも地位が上の人に話しかける際には、少しだけ距離を長く取ったほうがより効果的だということです。(120ページより)

職場の生産性を上げる方法

イギリスにあるウォーリック大学のアンドリュー・オズワルドは、「幸せな気分のときに、本当に生産性が高まるのか」を確認するための実験を、何度もくり返しました。

参加者はのべ700人を超えます。楽しい気分にさせるために、オズワルドは第1実験と第2実験では、「コメディアンのビデオ」を使いました。コメディアンのビデオを10分間見せてから、2桁の数字を5つ足し算する(31+51+14+44+87=?)という単純な計算をやらせてみたのです。

この実験では、できるだけ早く、できるだけたくさん解くことが求められました。正解すると1問につき、0.25ユーロが支払われることになっていたので、参加者は真剣に取り組んでくれました。これで生産性を選定してみたわけです。(126〜127ページより)

その結果、コメディアンのビデオを見て笑ったあとは、たしかに生産性が上がっていたそう。つまり、「楽しい気分を与えれば、生産性が上がる」ということが立証されたわけです。

また第3実験として、果物やチョコレートを提供して幸せな気分にさせたときはどうなるかについても実験したところ、やはり生産性は上がったといいます。

どんな形であれ、「楽しいなあ」「幸せだなあ」という気持ちにさせることができれば、生産性は12%ほど高くなる、ということをオズワルドは突き止めました。(127ページより)

もちろんこれは、職場の生産性を高めることにもあてはまるはず。どうせ仕事をするのなら、みんなで和気あいあいと楽しい気分でいたいところ。つまり、そういう雰囲気づくりをしてくれる上司や社長の下でなら、従業員は一生懸命仕事に取り組んでくれるということです。(126ページより)

社員の一体感を高める簡単な方法

著者はこの項で、職場でラジオ体操をすることを勧めています。一緒に動きを合わせれば社員の一体感が高まり、絆が強化されるというのがその理由。

毎朝ほんの10分程度の時間を使うだけで「社内の和」が生まれる、すなわち「一緒になにかをすると、私たちはとても仲よくなれる」ということのようです。難しいことではありませんし、たしかに始めてみる価値はあるかもしれません。

米国スタンフォード大学のスコット・ウィルターマスは、3人組のグループをいくつか作らせ、キャンパスの周囲を歩いてもらう、という和やかな実験をしたことがあります。ただし、あるグループには「手の振りや、歩調などを合わせて歩いてきて」とお願いして、残りのグループには「3人で普通に歩いてきて」と伝えました。(129ページ)

散歩が終わったとことで各グループに、協力して行うゲームをしてもらった結果、特徴的な結果が出たそうです。歩調を合わせて歩いたグループのほうが、協力が増えることがわかったというのです。歩調を合わせて歩いていると、シンクロニー(多くの時間をともにすることで言動が似てくる現象)が高まり、互いに協力し合えるようになったわけです。

つまり私たちは、同じ動作をしていれば一体感が高まるということ。著者が職場でのラジオ体操を勧めるのも、そんな理由があるからなのです。(129ページより)

学術的であるというより、誰かに話したくなってしまうようなトピックスがぎっしり詰まった一冊。そのため実用的であるだけでなく、読み物としても魅力的です。

Source: 総合法令出版

メディアジーン lifehacker
2024年7月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク