『なぜ、あの会社はつぶれないのか?100年企業の物語』
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<書評>『なぜ、あの会社はつぶれないのか? 100年企業の物語』中日新聞編集局 編
[レビュアー] 内田俊宏(エコノミスト・中京大客員教授)
◆時代の「適者」として暖簾継承
日本には、創業100年を超える「ももとせ企業(100年企業)」が4万3631社ある(2023年9月現在・帝国データバンク)。世界中にある百年企業の半数以上が日本にある計算となる。その数は年々増加し、毎年の倒産数を上回る数の企業が100年企業に仲間入りしている。
そうした100年以上も続く中部圏の50社を紹介し、その経営理念に迫るのが本書だ。中部は製造業の世界的な集積地だが、長寿企業はモノづくりに加え、食や伝統工芸に関連する業種も多い。経済のグローバル化が進み100年以上前とは全く異なる経済環境下で、なぜ100年以上も存続し続けるのか。採録された50の多様なストーリーの中には多くのヒントが潜んでいる。
お伊勢参りの旅人向けの茶屋として創業した二軒茶屋餅角屋本店(三重県伊勢市)は、今やクラフトビールメーカーへと変貌を遂げている。国が既存の産業構造の転換を目指しスタートアップ支援を強化する中で、社内での新陳代謝が進んだ企業のみが100年企業となるのだろう。
2023年における全国の新設法人は08年の統計開始以降、最多を更新した(東京商工リサーチ)。一方で、23年度の倒産件数は9年ぶりの高水準である。時代のニーズの変化に対応できない企業は淘汰(とうた)され、新しい技術やアイデア、ノウハウなどを持つ新興企業が生まれているのが現状である。
そうした中で、長寿企業は他社の自然淘汰によって適者となっているのではなく、自社内での自然淘汰(新陳代謝)を繰り返した結果、同じ暖簾(のれん)の企業として時代の要請に応える適者として存続している。本書にも、時代の転換点で変化をいとわず新事業に挑んだことで歴史をつないだ企業が数多く登場する。
中部の100年企業の社内には、創業当時の起業家精神が宿っている。自動車を中心とする強固な産業構造の陰に隠れ、眠っていた挑戦者魂が再び解き放たれようとしている。本書はリスクを恐れない勇敢さを呼び覚ますきっかけとなるに違いない。
(中日新聞社・1650円)
中日新聞の長期連載「ももとせ物語」を書籍化。
◆もう一冊
『ビジネスを育てる 新版』P・ホーケン著、阪本啓一訳(ディスカヴァー・トゥエンティワン)