『新東京アウトサイダーズ』
- 著者
- ロバート・ホワイティング [著]/松井 みどり [訳]
- 出版社
- KADOKAWA
- ジャンル
- 文学/外国文学、その他
- ISBN
- 9784040824857
- 発売日
- 2024/05/10
- 価格
- 2,090円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
<書評>『新東京アウトサイダーズ』ロバート・ホワイティング 著
[レビュアー] 陣野俊史(文芸評論家)
◆徹底取材で暴く戦後の裏面史
同じ著者によるベストセラー『東京アンダーワールド』(2000年)は、六本木のレストラン「ニコラス」を舞台に、そこに集った有名無名の“不良ガイジン”やヤクザ、映画スター、プロレスラーまで描いて、戦後日本社会の一側面を暴いてみせた。本書は02年に刊行された続編に、新しく三つの章を書き加えて編み直したもの。
章ごとに登場人物が変わる。敗戦直後に誕生した秘密作戦組織「キャノン機関」の活動を、関係者の声に沿って再現する第一章から始まる。日米の闇社会を往復しながら、ほとんど詐欺まがいの手口で金を儲(もう)けたしたたかな連中を次々と明らかにしつつ、野球関連では王貞治とボビー・ヴァレンタインの仕事を評価する。日本外国特派員協会の存在を掘り下げたかと思えば、MKタクシーの、創業者から続く、在日外国人としての苦闘の歴史を、証言を基に辿(たど)る。その他、ビットコイン、統一教会など、盛りだくさんの内容だ。
とにかく、日本の闇社会の深さには驚くばかり。しかもそれが緻密な取材と膨大な資料から叙述されているために反論の余地はなく、どんどん読んでしまう。その最中に、あまり知られていない小さな事実が明かされたりする。
たとえば、サルマン・ラシュディ著『悪魔の詩』(イスラムへの冒瀆(ぼうとく)として強い反発を招いた)の翻訳者が研究室のある筑波大学で殺害された事件(1991年)。その事件に先立って、日本外国特派員協会で記者会見が行われ、暗殺未遂事件があったことが証言として記されている。「この記者会見に居合わせて、暴漢がナイフを振り回す現場を目撃したよ。東京の警官が床に押さえつけて、武器を奪い取って、またたく間に部屋から引きずりだした」。ラシュディ自身、2022年に暴漢に襲われ、片目を失明した。事件は終わっていない。
著者はアンダーグラウンドの事実を、過度な感傷を排して書く。かといって歴史を記述するように淡々と書いているわけでもない。うっすらと情を感じる。そこが面白い。
(松井みどり訳、角川新書・2090円)
1942年、米国生まれ。野球や日本文化論をテーマに執筆。
◆もう一冊
『ふたつのオリンピック 東京1964/2020』ホワイティング著、玉木正之訳(KADOKAWA)