『女性はなぜ男性より貧しいのか?』
- 著者
- アナベル・ウィリアムズ [著]/田中恵理香 [訳]
- 出版社
- 晶文社
- ジャンル
- 社会科学/社会
- ISBN
- 9784794974235
- 発売日
- 2024/05/24
- 価格
- 2,860円(税込)
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<書評>『女性はなぜ男性より貧しいのか?』アナベル・ウィリアムズ 著
[レビュアー] 武田砂鉄(フリーライター)
◆格差の手口明らかに
もう男女平等でしょ、いつまでも格差があるなんて言ってんじゃないよ、との意見は、24時間営業のようにSNSに飛び交っている。だが、その力任せの声こそが、格差が残っている証拠にもなっている。平等を身勝手に設定し、その土俵に男も女もいると議論を潰(つぶ)す動きが目立つ。
本書の目的は、いわゆる「ガラスの天井を叩(たた)き割る」ことではない。それでは「脚光を浴びる」女性たちの話になる。そうではなく、見えにくくなっている「広範な経済的不平等の本質」を捉えなければいけないとする。
「何百年ものあいだ、女性は財産をもつことができなかった。女性自身が財産だったからだ」、前半に出てくる端的な一文は、疑問形のタイトルに答えるかのよう。常に男性社会の価値観の中で査定され、不十分な権利を渋々お裾分けされてきた。どんな専門家の語りも、男性の場合は洞察力に富んでいると評価される一方で、女性のそれは、女性ならではの視点と片付けられる。男性ならでは、とは言われないのに。
アメリカの調査で、親がインターネットで「私の息子は才能があるか?」と検索した回数は「私の娘は才能があるか?」の2・5倍だったという。実にイヤな結果だ。親の期待、社会の期待が均等でないからこそ、女性は「自分は能力がなく、ほんとうはこの仕事をすべきでないと思い込み」をしてしまう「インポスター(詐欺師)症候群」にとらわれがちになる。
朝起きてから寝るまで、様々(さまざま)な局面で女性が不利な状態に置かれている。家を借りる、トイレを使う、求められる美の基準、経済に弱いとの決めつけ、差異を無効化する手口は似ている。男性も大変だし、女性の中にも解決している人はいると、不均衡を放置して解決済みと押し切る。
これまでの格差是正の歴史を明かしながら、どんな格差が残されているのか、ともすれば改めて格差を広げようとしているのか、手口を明らかにする。「やればできる」という信条ではなく、目の前に残る現実を直視している。
(田中恵理香訳、晶文社・2860円)
投資、経済などを専門とするジャーナリスト・編集者。本書が初の著作。
◆もう一冊
『「女の痛み」はなぜ無視されるのか?』アヌシェイ・フセイン著、堀越英美訳(晶文社)