『戦争ミュージアム』
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理不尽な運命を語り伝える
[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)
今年の8月15日は79回目の終戦記念日だ。人の一生に相当する長い年月が過ぎたことになる。今や70歳代までの日本人すべてが戦争を知らないのだ。梯久美子『戦争ミュージアム 記憶の回路をつなぐ』を手にする意味もそこにある。
著者によれば、戦争ミュージアムとは「戦争を伝える、平和のための資料館や美術館」である。戦争体験者の話を聞くことが困難な時代に、戦争の〈記憶〉を伝える大切なメディアだ。
山口県の「周南市回天記念館」では、人間魚雷「回天」の実物大模型が目を引く。体当たりが前提の特攻兵器には脱出装置がない。乗り込む若者たちを兵器として扱う暴挙だった。
また、広島県竹原市の沖合にある「大久野島毒ガス資料館」。驚くほど粗末な防毒服や既視感のある容器で大量の猛毒を扱っていたため、戦後も多くの従事者が後遺症に苦しんだ。
さらに京都府の「舞鶴引揚記念館」には、シベリア抑留をめぐる資料が収蔵されている。中でも二百首の和歌が記された「白樺日誌」が異彩を放つ。白樺の木の皮に、空き缶で作ったペン先と煤(すす)を水に溶かしたインクで、抑留の日常や心情を詠み残したものだ。理不尽な運命を生きた人の肉声がそこにある。
他に「稚内市樺太記念館」、「戦没画学生慰霊美術館 無言館」、「対馬丸記念館」など、全部で14の施設が紹介されている。現物を含む貴重な資料は歴史の「証言者」であり、現在と過去をつなぐ「仲介者」だ。