『トランスジェンダーQ&A』
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『私の身体を生きる』西加奈子ほか著/『トランスジェンダーQ&A 素朴な疑問が浮かんだら』高井ゆと里、周司あきら著
[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)
身体との向き合い 問う
わたしはわたしの身体と向き合っているだろうか。
『私の身体を生きる』は、十七人の書き手が「身体」をテーマに書いた、エッセイや短編小説。圧倒されるほど赤裸々に語られる自慰、未(いま)だに計りかねる自分との距離、変化していく肉体と心、社会が決めてしまう本意でない「わたし」の形、妊娠と出産、暴力や意図的な身体の毀(き)損(そん)。
見て見ぬふりをしていたり、見続けていたり、執着したり、投げ出したり、祝ったり、呪ったり。ひとつしかない身体というものと向き合う、十七通りの内側の視線と外側の視線。
身体「で」生きる、でも、身体「と」生きる、でもない、身体「を」生きる。人生の伴走者として、否(いや)も応もなく死ぬまで託されたこの身体「を」どう生きるか。それぞれの視点を、我がこととして読もうとした。
わたしはあなたの身体と向き合っているだろうか。
以前トランスジェンダーの勉強会に出た時に、「素朴な疑問だと前置きされて投げかけられる、あまりにも乱暴な視線」こそが問題だ、と聞き、愕(がく)然(ぜん)とした。この『トランスジェンダーQ&A』のサブタイトルにも「素朴な疑問が浮かんだら」とある。
「素朴な疑問」は解体していくと、誤った前提や、破綻した論理、思い込みや悪意が元になっていることも多い。
トランスジェンダーをニュースやSNSのトピックとして扱うのではなく、一人一人の人間として見ること、困っている人の居場所を作ることが、最終的に誰にとっても生きやすい社会への道になる。それを丁寧に、根気強く、一歩ずつQ&A形式で教えてくれる。読んでいるうちに、自分の中の「素朴な疑問」がいかに乱暴なものだったかに気づかされた。(文芸春秋、1650円/青弓社、1980円)