『「ふつうの暮らし」を美学する』
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『「ふつうの暮らし」を美学する』青田麻未著
[レビュアー] 東畑開人(臨床心理士)
「日常美学」という本書のテーマはふしぎに聞こえるかもしれないけれど、実は心理士的にはよくわかる。人は元気になってくると、日常を小さな美で飾るようになるからだ。うつで苦しんでいた人が回復してくると、お風呂に入り、髪を整えるようになる。部屋を片付け、食事を楽しみ、花を買ってみたりするようになる。自分を大事にするとはそういうことだ。
本書は重厚な哲学的美学の光で日常生活を照らす。すると、食卓の年季の入った椅子が芸術になり、毎日の掃除や地元を散歩することが芸術体験になる。私たちはただ生活しているだけなのに、同時に実は芸術しながら生きていることがわかる。
一番面白い議論は料理についてだ。著者は料理を作ることは芸術にはなりにくいのではと問いかける。賛否両論あるだろう。でも、料理は芸術なのかと問うこと自体が、きわめて芸術的な日常だと私は思う。ぜひ読んで考えてみてほしい。
元気が出る本だ。というのも、元気なときには日常はちょっとした芸術であることを思い出させてくれる本だからだ。(光文社新書、990円)