『清代知識人が語る官僚人生』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
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『訟師の中国史』
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『清代知識人が語る官僚人生』山本英史著/『訟師の中国史』夫馬進著
[レビュアー] 岡本隆司(歴史学者・早稲田大教授)
今は昔の中国、地方末端の官僚は庶民と直(じか)に接する県知事であり、「親民の官」とよばれた。とはいえ、およそ徴税と訴訟にあたるのみ、税務署と裁判所の業務であって、一般の民政には、ほぼタッチしない。
このあたりですでに日本史の常識とはかけ離れている。そんな歴史経過を背負って、はかりしれない現代中国が成り立っているのだとすれば、非常識な昔の理解が、中国の今をわかる一法だといえなくもない。
類書も稀(まれ)な両書は、日本でいえば江戸時代・清代史の碩(せき)学(がく)にして社会史研究の第一人者が、それぞれの学殖を書き下ろした一般書である。典型的な一県知事の職務・経歴・思想、あるいは往年の訴訟慣行と辯(べん)護(ご)士(し)ならぬ「訟(しょう)師(し)」のなりわいから、中国社会の旧態が髣髴(ほうふつ)すると期待したい。
何分われわれにとって非常識なだけに、両書の紹介する用語も制度も言動も、複雑でわかりづらく、通読に骨が折れる。しかしその非常識な史実が、常識的な素養になってくると、日本人の中国観に転機が訪れるように感じるのは、評者だけではあるまい。(東方書店、2640円/筑摩選書、2090円)