『グリーン戦争――気候変動の国際政治』
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<書評>『グリーン戦争 気候変動の国際政治』上野貴弘 著
◆民間など新参組も存在感
「きれいごとでは済まない」というのが、気候変動をめぐる国際政治に関する著者の総括だ。地球温暖化をめぐる議論の核心は、対策のコストを、誰が、いつ、どういう形で負担するかだ。
温暖化に関する国際合意の一言一句の裏で展開される外交的な駆け引きを語りながら、これまでの交渉の経緯に国際政治と国内政治の両面から光を当てている。そこに浮かび上がる風景は国際政治の縮図そのものだ。米中関係の推移に影響を受け、米国内政治の動きに翻弄(ほんろう)される。米国では、議会上院での民主党と共和党の力の均衡と対立の激しさを反映して、石炭生産州選出の上院議員一人の言動に政策が左右されるありさまだ。
また比較的厳しい温暖化対策を求める先進工業諸国と、それでは経済発展が阻害されると抵抗する開発途上諸国の対立がある。そして、そのグループ内での相違もある。例えば海水面の上昇で国土の存続が脅かされている島嶼(とうしょ)諸国は、発展途上にありながらも、厳しい対策を求めている。
さて、これまで国家と国家の関係が規定してきた既存の国際政治の枠組みがほどけつつある。現在ではイッシューによっては、州政府、金融機関、エネルギー企業、市民組織などの新しい主体も、大きな役割を担う。まさに環境問題は、そうしたイッシューだ。
そのうえ本書が提示するのは、電気自動車に代表される環境に優しいテクノロジーをめぐる覇権争いだ。また、そのテクノロジーを支える鉱物資源のサプライチェーンの支配をめぐる争いだ。くわえて環境保全のための措置と自由貿易体制の摩擦が語られる。「グリーン戦争」が描く気候変動の国際政治の風景の中では、広範な課題をめぐって多様な主体が、重層的な合従連衡の形成と崩壊を繰り返している。万華鏡を見る思いだ。
最後に門外漢の抱く疑問は、日本のエネルギー面でのオプションとして、なぜか地熱発電に光があたらないことだ。アイスランドでは地熱発電による脱炭素化が日本企業の技術によって実現しているのに、だ。
(中公新書・1265円)
1979年生まれ。電力中央研究所上席研究員。専門は地球温暖化対策。
◆もう一冊
『「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札』高橋真樹(まさき)著(集英社新書)