『決断 そごう・西武61年目のストライキ』
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<書評>『決断 そごう・西武61年目のストライキ』寺岡泰博 著
[レビュアー] 辻山良雄(「Title」店主)
◆「百貨店人」としての誇り
2023年8月31日。東京・池袋にある西武池袋本店は臨時休業し、そごう・西武労働組合は、百貨店としては61年ぶりとなるストライキを決行した。本書はその渦中にいた、組合の中央執行委員長が記した、ストライキに至るまでの記録である。
当時、(株)そごう・西武の親会社であったセブン&アイ・ホールディングスは、そごう・西武をアメリカの投資ファンドに売却しようと交渉中であった。しかしその案では「雇用の維持」や「百貨店事業の継続」の先行きが不透明であるとして、組合は売却に反対していたのだ。
セブン&アイ経営陣との話し合いは、フラストレーションのたまるものであった。彼らは聞かれたことには答えず、のらりくらり、時が経(た)つのを待った。自分たちはこれからも働き続けることができるのか? 組合は、経営陣から直接聞くことのできなかった回答を、新聞や雑誌の報道で知ることとなり、不信はますます膨らんでいく……。そうした経緯を読んでいると、「会社は誰のものか」という言葉もふと頭をよぎった。
本書を読むあいだ、読者は会社という組織自体に、深い疑問を抱くかもしれない。そこでは株主の利益が優先され、働く者やサービスを受けるお客様の存在は、建前を別にしては、ないものとされる。仕事に対する愛着や、働くことから得られる人間的成長を、会社に求めるのはセンチメンタルな考えに過ぎるのか? 組織になった瞬間、個人の持つ温かさが消えてしまうのは、日本的組織の悪弊でもある。
ストライキには会社の垣根を越え、高島屋や三越伊勢丹など、他の百貨店の組合も駆け付けた。それは自ら身を投じた職業に対する<百貨店人>としての誇りなのだと思う。ただモノを売るだけではない、地域の文化にも深く関わる百貨店という場を守りたい──その危機感が彼らを突き動かしたのだった。会社の経営者ならば、そうした思いをないがしろにすべきではないし、街や社会にとって何が必要なのか、広い視野に立った判断が求められるだろう。
(講談社・1980円)
1993年西武百貨店入社、2018年、そごう・西武労組中央執行委員長。
◆もう一冊
『経済成長という病』平川克美著(講談社現代新書)