『バーニング・ダンサー』
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〈国内謎解き小説の旗手〉の会心作 警察捜査小説×能力バトル×謎解き
[レビュアー] 若林踏(書評家)
警察捜査、能力対決、謎解きの三点盛りで出来上がったスリラーだ。
某国に隕石が落下してから、世界に“コトダマ遣い”と呼ばれる百人の能力者が出現するようになった。彼らは物体の位置を交換する“入れ替える”、手に触れるものを腐らせる“腐る”など、言葉に応じた能力、つまり“コトダマ”を発揮することが出来る。ただし一つの“コトダマ”を持つ人間は地球上に必ず一人で、死ねば“コトダマ”は別の誰かに継承されるのだ。警視庁はこの“コトダマ”を持つ人物達を集めた「警視庁公安部公安第五課コトダマ犯罪調査課」を設立し、“入れ替える”のコトダマを有する捜査一課の永嶺スバルもメンバーの一人として呼び寄せる。「コトダマ犯罪調査課」が最初に手掛けるのは、全身の血液が沸騰した死体と炭化するほど燃やされた死体が同時に発見された事件だった。
捜査員たちが各々の能力を駆使して捜査しつつ、犯人側の持つ“コトダマ”の正体を見破る、という展開が本作の肝である。“コトダマ”には発動する条件が必ず備わっており、その条件が一体何なのかを推理しながら捜査陣と犯人の攻防が描かれていく。警察捜査小説に能力バトルものの要素を掛け合わせた点がユニークである。
個性的なメンバーが集うチーム捜査ものとしても魅力的だ。作者が範としたのは米国の作家ジェフリー・ディーヴァーの〈リンカーン・ライム〉シリーズであり、「コトダマ犯罪調査課」の面々が行う捜査方式にも先行作へのオマージュが随所に窺える。翻訳ミステリファンにとって思わず笑みが零れるような場面が満載だ。謎解き小説としての完成度も高く、能力バトルの中にも精緻な論理による真相当ての興趣を入れて楽しませる。意外な物証から推理が組み立てられていく過程は壮観だ。翻訳ミステリの名作に敬意を示しつつ、現代国内謎解き小説の旗手が自身の強みを大いに発揮した会心作である。