『強みを見つけるブランディング』
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【毎日書評】業績が伸びるだけじゃない「企業ブランディング」戦略でグッと変わるもの
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
企業経営や組織運営で起こる問題・課題の99%は、ブランディングで解決できる――。『強みを見つけるブランディング』(戸部二実 著、宣伝会議)の著者は、そう断言しています。累計500件以上のあらゆる企業のブランディング戦略の立案や企画に携わってきたという人物。
なお、多くの企業と関わるなかで、各社が抱える悩みの根底にあるのは「業績」と「組織」の問題であるということに気づいたのだとか。しかし、そうした問題や課題は、会社のブランドを確立することで解決できる(少なくとも解決の糸口をつかむことはできる)というのです。
業績の悩みといえば、売上や利益に関するもの。組織の悩みとしては、「人材が集まらない」「活躍する人材が少ない」「離職率が高い」など、社内の人材に関する課題が挙げられるでしょう。そうした問題も、ブランディングによって解決できるということ。
ちなみにご存知のとおり、ブランディングとは「自社のブランド=強みや特徴」を世の中に発信することです。そして対象とのコミュニケーションを最適化し、活性化し、企業経営を円滑にする一連の活動。
この活動にはいくつか踏むべきステップがあります。まず、ブランドを発信するためには“自社”がどのような存在なのかを知らなければなりません。
ブランディングとは著名人を起用する広告戦略や新規事業を立ち上げる事業戦略などではなく、そこ(企業)に存在している固有の強みを見つけ、ブランドとして再定義し発信することなのです。
企業ブランドとは外からもたらされるものではなく、自社の中にすでにあるものから引き出されるものなのです。(「はじめに」より)
つまり著者はブランドをつくるのではなく、見つけ・掘り起こし、発信する活動としてのブランディング戦略をサポートしているわけです。
そうした立場に基づいて書かれた本書のなかから、きょうは基礎的な知識を解説した第1章「経営戦略としてのブランディング」内の「いま、企業にブランディングが必要とされる理由」に焦点を当ててみたいと思います。
そもそもブランディングとはなにか?
「『自社のブランド=強みや特徴』を世の中に発信すること」だということはわかっていたとしても、ブランディングということばそのものの定義は難しいものでもあります。そこで著者はここであえて、ブランディングの根源的な部分に踏み込んでいます。
これはBrand+ingという構造に分解でき、大きくは「ブランドを定義し浸透させること」と言い換えられます。そもそもブランドの起源は自社製品と他社製品とを区別するラベルやマークのことでした。それが発展して、今では「自分(たち)らしさ」や「独自性」などの概念まで含むものになったのです。(13〜14ページより)
たとえばチョコレートや時計など単一の商材であれば、ブランドの概念と結びつけることは難しくないかもしれません。しかし、それが企業となると少しばかり難解になるはず。
企業の単位で捉えるブランドとは、その企業のサービスや商品、社員がもたらす顧客体験や価値観などをひっくるめた広範囲の企業イメージということになるからです。(13ページより)
大手航空2社の場合は?
一例として、日本を代表する航空大手2社について考えてみましょう。価格やサービスなど大まかには似ている部分も少なくありませんが、それでもどことなく異なるイメージが両者にはあるのではないでしょうか。
したがって、航空会社を選ぶ際に期待する条件が似ていたとしたら、「日ごろからなんとなく好ましく感じていた会社」の便を選んでしまうはず。いってみれば、自分の価値観やその旅で得たい体験や空気感などがないまぜになっているわけです。
また、「きょうはこんな気分だから、こちらの会社の便を」など、そのときの気分次第で選択が変わることも考えられます。見逃すべきでないのは、ここに大切なポイントがあること。
実は、ブランディングとは「どちらが優れているか」などの優劣を問うものではなく、「どちらが自分には合うのか」「このシチュエーションならこちら」などユーザー(顧客)サイドの選択を楽にする役割も持っているのです。(14ページより)
したがってブランディングをきちんと行えば、企業はその商品やサービスを求める真のユーザーやステークホルダーとよりよい関係を築くことができるわけです。しかもその結果、“顧客のファン化”が進むことにもなります。「この会社は、本当に素晴らしい」と心から思ってくれるユーザーと出会うことで、ロイヤリティ=絆が強まり、たしかな顧客基盤が築けるようになるということです。
しかしそうしたメリットだけではなく、リスクもあるもの。自社の実力や本質に見合ったブランディングを行わないと、間違ったユーザーを惹きつけてしまうことになりかねないわけです。
つまりブランディングにはプラスの効果だけではなくマイナスの側面もあるからこそ、深くていねいに考え、それと同時にワクワクと夢を描きながらつくっていくことが大切。著者はそのように述べています。(14ページより)
ブランディングで獲得できること
ブランディングを別のことばに置き換えると、「商品やサービス、企業にふさわしいイメージを獲得すること」になります。
例えば「A(商品群)といえば、B(特定の商品)」という構文を想像してください。
Aにはお菓子、化粧品、服や装飾品など、世の中のあらゆる商品やサービスが入ります。
Bには特定の商品名が入ります。あらゆる商品がひしめく中、Bの強みを端的に表すイメージを確立させて、広く周知していく活動。それがブランディングです。(15ページより)
重要なのは、「A(商品群)といえば、B(商品名)」の部分をわかりやすくすること。そうすることで潜在的に、“Bの機能やメリット”を求めているユーザー(潜在顧客)から発見されやすくなるからです。
また、その結果としてマッチング成功率が高まり、ファン化も進むことに。いうまでもなく、それは大きなメリットになるわけです。(15ページより)
本書で紹介されているブランディング戦略の素養は、企業ブランディングのみならず、組織づくりやチームマネジメントなど、あらゆるビジネスに転用できるといいます。自社のブランド力を高めるために、そして組織力を強化するために、参考にしてみてはいかがでしょうか。
Source: 宣伝会議